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SRY(Sex-determining region Y)とは哺乳類のY染色体上にあり、胚の性別を雄に決定する遺伝子〔 〕〔武藤照子「哺乳類における性決定遺伝子と生殖巣の分化」(岡田益吉、長濱嘉孝、中辻憲夫編『生殖細胞の発生と性分化』)〕〔諸橋憲一「哺乳類における生殖腺の性分化」『蛋白質核酸酵素』2004年2月号〕である。哺乳類特有の性決定遺伝子であり他の生物ではアフリカツメガエルのDM-W、メダカのDMYのように別の遺伝子が性決定に関与する。 "Sex-determining region Y"を日本語に翻訳すると「Y染色体性決定領域遺伝子」となるが、通常SRYまたはSRY遺伝子と表記する。翻訳産物であるSRYタンパク質は遺伝子本体が不明だった時代にはTDF(testis determining factor:精巣決定因子・睾丸決定因子)と呼ばれ〔長井光三「哺乳動物における性決定の分子機構」『蛋白質核酸酵素』1994年8月号〕〔八杉竜一ら編「性決定物質」『岩波生物学辞典(第4版)』〕〔八杉竜一ら編「精巣決定因子」『岩波生物学辞典(第4版)』〕、遺伝子が同定された後もタンパク質の呼称としてはTDF・SRY双方が使われている。 == 機能と構造 == SRYは脊椎動物で初めて発見された性決定遺伝子である。Y染色体短腕のY染色体特異的領域に存在しており、限性遺伝する〔SRY遺伝子が発現すると雄に分化するため、厳密に言うとSRYは限性遺伝の原因となる遺伝子である。〕。大部分の哺乳類で雄への性決定を行う遺伝子であるが、単孔類と一部のネズミには存在しない〔黒岩麻里「Y染色体を失った哺乳類,トゲネズミ」『生物の科学 遺伝』2009年1月号〕〔デイヴィッド・ベインブリッジ『X染色体:男と女を決めるもの』79-83ページ〕。 ;機能 :SRYの発現は胚の性決定のスイッチとなり、未分化の生殖腺を精巣へと誘導する。SRY自体はその後の性分化の過程には直接関わらず、精巣で作られたアンドロゲンが雄への性分化を支配する〔。SRYが精巣決定因子の機能を持つことは、マウスXX胚にSRY遺伝子を導入すると精巣が形成されて雄となることで確認された。 :SRYが機能欠損あるいは欠失した場合、つまりSRY遺伝子に突然変異が起きて機能しない場合あるいは不等乗換えによってSRYがX染色体上に転座した場合などにはY染色体を持つ胚でも生殖腺は卵巣に分化しその個体は雌となる(スワイヤー症候群)〔"Entrez Gene: SRY sex determining region Y" 2009年6月3日閲覧。〕。 :2006年に公表された論文では成熟雄ラットの神経系においてSryが発現しており、その結果、性ホルモンを介在せずに脳の性差をもたらしていることが示唆されている。 ;構造 :SRYのDNA塩基配列はイントロンを含まず、タンパク質の構造の特徴としてHMGボックスと呼ばれるDNA結合領域を持つ〔。このHMGボックス構造を含みSRYと60%以上の相同性を持つ遺伝子群はSOX(SRY-related HMG box)遺伝子ファミリーと呼ばれる〔〔アメリカ合衆国・国立生物工学情報センター(NCBI) - HomoloGene 〕。SRYおよびSOXファミリーは、HMGボックスで他の遺伝子の発現制御部位のDNA配列に結合する転写因子であると考えられている〔諸橋憲一「哺乳類生殖巣の分化」(岡田益吉、長濱嘉孝、中辻憲夫編『生殖細胞の発生と性分化』)〕〔SOXファミリーの一部は性分化に強く関与しているものと考えられているが、その機能は哺乳類と他の生物では異なる場合もある。たとえばSOX9は哺乳類の生殖腺形成に関与しているが、鳥類では発現時期が異なるため異なる作用を持つと考えられている(諸橋憲一「哺乳類における生殖腺の性分化」『蛋白質核酸酵素』) 〕。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「SRY」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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