|
インテグリン(integrin)は、細胞表面の原形質膜にあるタンパク質で、細胞接着分子である。細胞外マトリックスのレセプターとして細胞 - 細胞外マトリックスの細胞接着(細胞基質接着)の主役である。また細胞 - 細胞の接着にも関与する。タンパク質分子としては、α鎖とβ鎖の2つのサブユニットからなるヘテロダイマーであり、異なるα鎖、β鎖が多数存在し、多様な組み合わせが可能である。 歴史的には、1985年、細胞接着分子・フィブロネクチンのレセプターとして最初に発見された。その後、多数のタンパク質がインテグリンと同定され、インテグリン・スーパーファミリーを形成している。細胞内では、アダプタータンパク質を介して細胞骨格のミクロフィラメントに結合し、細胞内シグナル伝達をする。 インテグリンは「α1β1」などと、αβの後に数字や記号を下付に書く方式と、「α1β1」と下付にしないで書く方式が混在して使われている。ここでも、両方式を混在して使う。 == 発見 == === フィブロネクチンレセプターとして === 1973年、英国 王立がん研究基金 のリチャード・ハインズ(Richard O. Hynes)が細胞表面のフィブロネクチンを発見し。1976年、米国・NIH・国立がん研究所のケネス・ヤマダ(K.M. Yamada)がフィブロネクチンの細胞接着活性を発見した 。細胞接着分子はその後たくさん発見されるが、フィブロネクチンはその最初だった。 細胞接着活性は、次のように観察された。フィブロネクチン溶液を培養皿や96穴プレートに入れ、1時間ほど室温放置すると、微量のフィブロネクチンが容器底面に吸着する。容器底面を洗い、生きた培養細胞をまくと、60~90分で、細胞は容器底面に接着し、丸い球形の細胞が伸展し、三角形-五角形の形状になる。フィブロネクチンをまかない容器(対照実験)では細胞は丸い形状のままである。 顕微鏡下で、全細胞中の伸展した細胞数を数え、細胞接着活性を数値化する。つまり、べちゃと伸展した細胞形状で細胞接着を観察していたことから、細胞はプレート上のフィブロネクチン分子全体に非特異的に結合することで細胞接着(実際は、細胞伸展)が起こると、当初、思われた。また、フィブロネクチンが巨大なタンパク質だったので、細胞はフィブロネクチン分子全体に非特異的に結合すると思わせる面もあった。 1980年頃、フィブロネクチンのヘパリン結合部位やコラーゲン結合部位が、フィブロネクチン分子のプロテアーゼ断片に担われていることがわかってきた。このことから、特定の結合部位は、フィブロネクチン分子の特定の部位(=ドメイン)に存在する「フィブロネクチンのドメイン構造説」が有力になり、フィブロネクチン分子の構造と機能がドメイン構造説で理解されるようになった。米国の西海岸のワシントン大学・箱守仙一郎研究室の関口清俊と、東海岸の国立がん研究所・ケネス・ヤマダ研究室で林正男が、ドメイン構造解明に大きく貢献した 。 ドメイン構造説が有力になるにつれ、細胞接着活性も特定のドメインに存在するのではないかと思われ、その考えで研究を進めた米国のエルキ・ルースラーティ(E. Ruoslahti 〔公益財団法人 国際科学技術財団:日本国際賞/Japan Prize 2005年受賞者 エルキ・ルースラーティ(E. Ruoslahti) 〕 )は、1984年、「フィブロネクチンの細胞接着部位はたった4つのアミノ酸Arg-Gly-Asp-Ser(RGDS)(RGD配列)に担われている」という驚くべき結果を発表した 。 RGD配列の発見は、とりもなおさず、細胞の方にも、細胞表面に特定のフィブロネクチン・レセプタータンパク質があるだろうと思わせた。 1985年、米国のエルキ・ルースラーティ(E. Ruoslahti)は、界面活性剤・オクチルグルコシドで可溶化した細胞膜タンパク質をフィブロネクチン・アフィニティークロマトグラフィーにかけた。非結合画分を洗い流した後、フィブロネクチンに結合する細胞膜タンパク質を、RGD配列を含むRGDペプチドで溶出した。すると、還元剤なし条件のSDS電気泳動で、分子量は140 kDaの1本のバンドが検出できた。フィブロネクチン・レセプタータンパク質を世界で最初に単離したのである。ポイントは、RGD配列を含むRGDペプチドで特異的に溶出させる手法を用いたことだった 。 一方、全く別の方向からも、フィブロネクチン・レセプタータンパク質が見つかった。1970年代、ドイツのジョルジュ・J・F・ケーラーとアルゼンチン生まれのセーサル・ミルスタインがモノクローナル抗体の作製法を開発し、1984年、この開発でノーベル生理学・医学賞を受賞したが、1980年代初期には、世界の先端的研究室にモノクローナル抗体作製技術が普及し始めていた。 米国のホルビッツ(Horwitz AF)は、この技術を応用し、培養細胞の膜タンパク質に対するモノクローナル抗体を作り、フィブロネクチン上での細胞接着を阻害するモノクローナル抗体(想定抗原はフィブロネクチン・レセプタータンパク質)として、特定のハイブリドーマを選別した。その結果、JG22やCSATと命名されたモノクローナル抗体を得ていた。 1985年、米国・NIH・国立がん研究所のケネス・ヤマダ(K.M. Yamada)研究室の長谷川孝幸・悦子夫妻は、フィブロネクチン・レセプタータンパク質を単離する目的で,JG22の改良型JG22Eを不溶性の担体に固定し、抗体(JG22E)・アフィニティークロマトグラフィーを試みた。この抗体を固定したカラムに,ニワトリ13日目胚組織から調製した細胞膜成分を、界面活性剤・オクチルグルコシドで可溶化し、カラムに通し、JG22Eに特異的に結合するフィブロネクチン・レセプタータンパク質を単離した。還元剤なしのSDS電気泳動で140 kDaの1本のバンド、還元剤入りだと、155 kDa、135 kDa、120 kDaの3本のバンドになった 。同年、米国のホルビッツ(Horwitz AF)も同じようなフィブロネクチン・レセプタータンパク質を発見した 。 翌1986年、米国のリチャード・ハインズ(R.O. Hynes)は、ホルビッツの単離したフィブロネクチン・レセプタータンパク質のcDNAクローニングに成功し、塩基配列を決定した) 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「インテグリン」の詳細全文を読む スポンサード リンク
|