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ベンゾジアゼピン離脱症候群(ベンゾジアゼピンりだつしょうこうぐん、Benzodiazepine withdrawal syndrome)は、ベンゾジアゼピン系薬の服用により身体的依存が形成されてから、用量を減量するか、断薬することによって生じる一連の離脱症状である。これは頻繁に深刻な睡眠障害、易刺激性、不安と緊張の増加、、手の震え、発汗、集中困難、混乱と認識困難、記憶の問題、吐き気やむかつき、体重減少、動悸、頭痛、筋肉の痛みと凝り、多くの知覚変化、幻覚、てんかん発作、 精神病、インフルエンザ様症状、また自殺〔といった特徴がある(#兆候と症状節の完全な一覧を参照)。さらに、これらの症状は単純に直線的に着々と減少するのではなく、重症度が日々あるいは週ごとに変化し、一進一退することで有名である。 離脱症状は潜在的に深刻な状態であり、複雑でしばしば長期化する。すべての長期的な使用者に離脱症状が出現するのではないが、その割合は15%から44%の間だと推定されている〔。長期間の使用は、3か月以上の日常的な使用と定義され、このような使用は依存のリスクの増加、用量の増加や効果の減少、特に高齢者における事故と転倒のリスクの増加、また認知的、神経学的および知的な障害に結びつくため望ましくない。短時間作用型の睡眠薬の使用は入眠障害には有効だが、離脱の影響によって睡眠の後半は悪化する。しかしながら、ベンゾジアゼピンの長期使用者の場合は彼らの意思に反しての離脱を強制すべきではない。 ベンゾジアゼピン系の離脱症状は、アルコールやバルビツール酸系の離脱症候群に類似している。特に長期的な使用や高用量からの、突然あるいは急速すぎる減量は重篤となりえ、発作のような致命的な離脱症状を起こす。徐々に減量したり、また比較的低用量で短期的な使用であっても、そして動物実験では1回の大量投与の後でも重篤な離脱反応が起きることもある。致命的となる可能性のある振戦せん妄の兆候の評価が必要である。患者の少数では遷延性離脱症候群が起こり、ベンゾジアゼピンの中止後も急性症状の下位の水準で数カ月あるいは数年にわたって持続する可能性がある。服用量をゆっくり徐々に減少させることによって遷延性離脱症候群の発症の可能性を最小限にすることができる。〔 ベンゾジアゼピンに慢性的にさらされることで、薬の影響を弱めようと神経系が適応し、耐性と身体依存につながる〔。一定の治療用量であっても、ベンゾジアゼピンの長期的な使用によって、特に服薬間に離脱様の症状が出現することがある。投与が中止あるいは減量されれば、離脱症状が生じる可能性があり、身体の生理的な適応が逆転するまで残存する。これらの反跳性症状は、薬を服薬することとなった症状と一致しているか、または退薬による症状である。重篤な症例では、離脱反応は躁病、統合失調症、特に高用量において発作性疾患のような、精神医学的なまた医学的に重篤な状態に似ていることがある〔。 退薬症状を見分けられなければ、ベンゾジアゼピンを服用する必要性の誤った根拠となり、そして離脱の失敗とベンゾジアゼピンの再投薬へと戻ることになり、しばしば高用量となってしまう〔。 離脱反応の啓もう、個々人の離脱の重症度に沿った漸減計画、ベンゾジアゼピン離脱支援団体への紹介や支援はすべて離脱の成功率を高める。 ==歴史とガイドライン== 1960年に初のベンゾジアゼピンであるクロルジアゼポキシドがホフマン・ラ・ロシュ社より市場に出され、日本ではコントール、海外ではLibriumの商品名で知られる。そのすぐ後にジアゼパム(セルシン、Valium)が登場した。そしてすぐ後の1961年には、ホリスターらが1~7か月の間でクロルジアゼポキシドを使用した入院患者において、不眠症からけいれん発作までの離脱症状を報告した。こうした1960年代の初期の報告は、治療用量よりも高用量で長期的に使用した後の中止により生じたものであったが、後に治療用量でも離脱症状が生じることをいくつかの試験が示していった。 世界保健機関は、1961年に公布された麻薬を規制する麻薬に関する単一条約の後に登場した、新たな向精神薬の乱用を懸念した。1971年には向精神薬に関する条約が公布され、ベンゾジアゼピン系ではクロルジアゼポキシドやジアゼパムを含めた20種以上が指定され、後に登場したものでも国際的に乱用されたものについては追加されていった。アメリカでは1975年には、クロルジアゼポキシドやジアゼパムは規制物質法の管理下に置かれた〔。 ロシュ社は1980年まで非依存性であると主張し続けたが、今日の医薬品の添付文書は明らかに乱用や身体依存への注意を促している。日本の医薬品添付文書でも同様に依存と、不眠から発作までを含めた離脱症状に注意し、慎重な減量を促している。1980年代にイギリスのヘザー・アシュトンによるベンゾジアゼピン系の離脱専門診療所が開設される。1988年には、英国医薬品安全委員会は国内の医師に処方ガイドラインを送付し、ベンゾジアゼピン系の処方は4週間以内にすべきとした。 1996年には、世界保健機関がベンゾジアゼピンの合理的な使用に関するガイドラインを出版し、処方は30日以下にすべきであるとした。この報告書では、具体的な離脱の方法としてヘザー・アシュトンの論文を出典とし、全体の量の50%は数日で減量できるが、次の25%は数週間までを必要とすることがあり、最後の残りの25%は6カ月までを要する場合があり、まれに入院を要し、個々人に沿った管理の必要性が示されている。また半減期が短い薬剤は、長時間型に置換することにも言及している。 2002年には、ヘザー・アシュトンによる『ベンゾジアゼピン-それはどのように作用し、離脱するにはどうすればよいか』(''Benzodiazepines: How They Work and How to Withdraw'')がオンラインで入手可能となる。邦訳は2012年8月に公開され、これは出典論文が省略され、新たな付記も存在する。内容としては、離脱を管理するために長時間型のジアゼパムに置換し、ジアゼパムが10mgになるまで週あたり残りの10%を減量するといった、1996年の世界保健機関によるものよりさらにペースを落とした方法が紹介されている。 国内外の診療ガイドラインを比較すれば以下のようになる。 2012年の日本うつ病学会のうつ病の診療ガイドラインは、そもそも軽症のうつ病では安易な薬物療法の選択を避ける姿勢が優先されているが、薬物療法は抗うつ薬を基本とし、ベンゾジアゼピンを併用するとしても単剤かつ必要最小限とし、常用量依存に注意すべきとしている。 2013年の日本睡眠学会による診療ガイドラインでは、多剤併用によりさらなる有効性があるというよりは副作用の頻度を高めるのでできるだけ避け、臨床常⽤量を超える使用は絶対に避け、休薬する場合に複数の離脱症状を呈する患者は20〜40%とされ、漸減法などを⽤いて慎重に減量し、例として1〜2週間ごとに1/4錠ずつ減量し問題がなければこのように続行するなど時間をかけることが必要とされている。さらに、⻑期間、⾼⽤量、多剤併⽤が離脱症状の危険因⼦であり、2錠以上あるいは2種類以上である場合には緩やかな減量が必要だとしている。 この診療ガイドラインの医師向け解説では、単に1〜2週ごとに服用量の25%ずつ減薬するのが標準的であると書かれ「1錠の1/4」という情報が消去されている。多剤では半減期が短いものを先に減量するのが望ましく、単剤の超短時間作用型である場合には長時間型に置換してもいいとされる。この診療ガイドラインの睡眠薬の離脱症状の出現率の論拠は、非ベンゾジアゼピン系のゾピクロン(アモバン)の7.5mgかゾルピデム(マイスリー)の10mgを3カ月使用した後に徐々に減量した場合のものである。説明のある通り、非ベンゾジアゼピン系の薬剤は、受容体のサブタイプに対してより選択的に作用することで抗不安作用が少ないといった改良された睡眠薬であり、依存と離脱症状の点において古いベンゾジアゼピン系よりも改良された利点がある。睡眠薬での懸念は抗不安薬とは異なり、長年にわたった投薬からの急な断薬は、低用量においてさえも、けいれん発作を起こすなど非常に悲惨で危険となりうるため、低力価で長時間型の薬剤を使用し、特に何年も使用した場合には数カ月にわたって漸減すべきである。 2007年の英国国立薬物乱用治療庁の臨床ガイドラインでは、明らかに依存の症状がある場合にはジアゼパムに等価用量で置換して減量を開始し、治療用量の場合には、はじめにジアゼパムで2〜2.5mg減量し症状が出ればおさまるまで維持し、2週間ごとに1日の用量の8分の1(4分の1から10分の1の間)で減量するとしている。 2012年のコロンビア大学嗜癖物質乱用国立センター(The National Center on Addiction and Substance Abuse at Columbia University)による様々な薬物の嗜癖についての科学的根拠の精査は、ベンゾジアゼピンのような中枢神経抑制剤からの離脱は、アルコールにおける発作やせん妄に似た症状により一部では致死的となる場合があり、離脱症状は一般的には10~14日だが半年程度持続することもあるため、数週間から数カ月にわたって漸減すべきであり、選択肢としてクロルジアゼポキシドやクロナゼパムのような長時間型の薬剤を処方することもあるとしている。 アメリカ精神医学会(APA)による2009年のパニック障害のガイドラインでは、主とする治療薬は抗うつ薬となるが、初期にベンゾジアゼピンを使用しても身体依存に注意して2~3か月をめどとし、中止は2~4カ月にわたって週に10%の減量を超えないように漸減し中止する。 イギリスでは『英国国民医薬品集』(''British National Formulary'')にて漸減を推奨している。英国国立医療技術評価機構(NICE)の、2004年の不眠症の診療ガイドラインでは処方は4週間を限度とし、ベンゾジアゼピンの慢性的な使用者の10~30%が身体的に依存し、半数が離脱症状を経験すると記されている。 イギリスでは、フルニトラゼパム(サイレース、ロヒプノール)はNHSブラックリストに載っており国民保健サービスでは処方できない〔。アメリカでも医薬品として認可されておらず、国際的にも、1995年には他のベンゾジアゼピンよりも強い乱用傾向のため向精神薬に関する条約のスケジュールIIIへと規制が1段階昇格している。 対照的に、日本ではフルニトラゼパムが利用可能である上に、厚生労働省の研究において、睡眠薬の基準をフルニトラゼパムで等価換算しているし、2010年の精神科における2534名の処方歴から実際に26.3%と最も多い比率で処方されている。睡眠薬/抗不安薬をジアゼパムに等価換算し、1剤では平均8.6mg、同様に2剤で17.3mg、3剤で25.8mg、4剤で38.1mg、5剤は48.6mg、6剤以上では72.1mgである。多剤併用では、高力価のベンゾジアゼピンの使用や、3剤以上とですでに高用量となっている場合に注意が必要である。 ジアゼパムでは30~40mgからの中止によってせん妄やけいれん発作が生じやすい〔。アルコールなどの併用を除外して、ベンゾジアゼピン依存症だと同定された108人のうち高用量から突然断薬となった12%(13人)にせん妄やけいれんが生じ、せん妄が10%(11人)、けいれんが3%(3人)である。別の調査では、ベンゾジアゼピンの一年以上の使用者の離脱反応として、7%に精神病症状、4%にてんかん発作が生じている。 『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版(DSM-5)には、ジアゼパムに換算して15mgの「少量」でも、数か月にわたり毎日服用していれば離脱が生じることが報告されており、換算40mgでは臨床的な離脱症状を起こしやすく、100㎎ではせん妄やけいれんを、よりおこしやすいことが記載されている。 明確に高用量からの離脱に言及したものは、上述したヘザー・アシュトンの『ベンゾジアゼピン』や、2007年の英国国立薬物乱用治療庁の臨床ガイドラインや、2012年の英国精神薬理学会(BAP)の物質使用障害に関する科学的根拠に基づくガイドライン、また2009年の世界保健機関による薬物依存と離脱の管理のための臨床ガイドラインがある。 *『ベンゾジアゼピン』はジアゼパムに換算して100mgを超えるケースにも詳細に言及し、またもっとも遅い減量ペースであるが離脱症状が長期化するのを避けることに焦点を当てているためである。 *イギリス国民保健サービスの臨床ガイドラインでは、ジアゼパムに換算して30mg以上はごくまれにしか処方されるべきでなく、離脱を目的として短期間に限るべきとしている。ジアゼパムに換算して50mg以上のような非常に高用量の場合、専門家による評価が必要だとしている。 *英国精神薬理学会のものは、単に長期的に処方された治療用量の依存と、高用量となりがちな処方薬の誤用や違法な乱用を伴う依存を区別し、後者は先に治療用量に減量することが目的であるとしている。その具体的な手法には言及していない。ジアゼパムに換算して30mgの高用量は滅多に処方されるべきではないとし、この量は非常に高用量となったベンゾジアゼピンからの離脱けいれんを予防するのに十分な量であるためである。 *世界保健機関のガイドラインは、ベンゾジアゼピンは数週間で依存を形成し、離脱症状の重症度の変動が激しいため離脱尺度による計測は推奨できないとしている。また、最も安全な離脱の管理法は、用量を徐々に減量することであるとし、このことで離脱症状を軽減し発作の発症を予防できる。換算を超えても最大40mgまでの等価用量のジアゼパムを1日に3等分して投与し置換して、4~7日続け安定化させる。その後は、低用量と元が40mg以上だった高用量とに漸減計画が分かれこれに従って1~2週間ごとに減量していき、症状には波があるので症状が弱まるまで現行の用量を維持するとしている。(最大でも40mgの高用量のジアゼパムはアルコールの離脱の管理においても適切な量である) 長時間型のジアゼパムに置換し、昼、朝、夜の順で減量し減薬していく方法は、ヘザー・アシュトンの『ベンゾジアゼピン』と世界保健機関の診療ガイドラインとで共通し、夜を最後に回す理由はアシュトンによれば睡眠の為である。この2つを参考にすれば減量幅やペースは個々の症状の重症度に合わせて変化するだろうが、おおよそ以下のような手順である。 夜10mgのみとなってからの減量幅はアシュトンの『ベンゾジアゼピン』では1mgずつ、また13の症例が例示されている。海外の離脱支援団体では、非常に微量な量で減量していくミルク・タイトレーションという方法を用いている。 *『精神科救急のすべて』(''Handbook of Emergency Psychiatry'')は、救急医療におけるものだが、ベンゾジアゼピンを含む鎮静催眠剤の離脱はアルコールと同様の処置が必要であるとし、バルビツール酸系のフェノバルビタールの置換や、ベンゾジアゼピン系のクロルジアゼポキシドやクロナゼパムへの置換を候補として挙げ、1日の服用量をフェノバルビタールに等価換算し1日に3分割して投与する方法を紹介している〔、Handbook of Emergency Psychiatry, 2004〕。しかし、すでに見てきたように通常ベンゾジアゼピン系において用いられるのはバルビツール酸系ではなく、ベンゾジアゼピン系である。 2007年のイギリスの薬物依存の臨床ガイドラインは、重篤な離脱症状を呈し対処されていない患者は、症状緩和のために用量を増加させる必要があるかもしれないとしている。 他の様々な薬物を併存したケースの治療の科学的根拠の比較については、英国精神薬理学会のガイドラインが言及している。『精神科救急のすべて』は、アルコールや違法薬物を含めた併存した離脱における救急状態について、実際の救急医療に基づき言及している〔。精神科の多剤大量処方によって複雑な多剤処方となっている場合の減量について、笠陽一郎の『精神科セカンドオピニオン』に様々な事例が紹介されている。 ==兆候と症状== ベンゾジアゼピン、バルビツール酸、アルコールなどの鎮静催眠剤の離脱の影響は、深刻な医学的合併症となる。アヘンなどのオピオイドの離脱を引き合いにしてもその危険性を上まわる。たいていの患者は医師からの助言や中止のための支援はわずかである。一部の離脱症状は、薬が処方されることとなった症状と同じであり〔、急性であったり長期化したりする。症状の発症は、長い半減期をもつベンゾジアゼピンでは3週間まで遅れる場合があるが、短時間型のものでは一般的に24~48時間で現れる〔。高用量あるいは低用量の中止による症状には、基本的な違いはないが、高用量のほうが重篤化しやすい傾向がある。 日中における再発と、服用間離脱とも呼ばれる反跳性の離脱症状は、依存が始まれば生じることがある。再発は、薬が最初に処方された症状の再来である。対照的に、反跳症状は、ベンゾジアゼピンが最初に服用された症状の以前より激しい再来である。一方で、離脱症状は服用量が減少した期間中に初めて出現し、不眠症、不安、苦悩、体重減少、パニック、抑うつ、現実感喪失、偏執病などの特徴があり、トリアゾラムやロラゼパムのような短時間型のベンゾジアゼピンの中止によく関連している。トリアゾラムやロラゼパムでは7日の使用後でも離脱症状を発症させた証拠がある。〔日中の症状は、夜間にベンゾジアゼピンあるいはゾピクロンのようなZ薬を使用しだしてから数日から数週間後に生じる。離脱に関連した不眠症は、治療前よりも悪化して反跳する。これはベンゾジアゼピンを断続的に使用した場合でもそうである。 以下の症状が、徐々にあるいは急に減量した期間中に生じる ベンゾジアゼピンの急な、あるいは急速すぎる中止は、さらに重篤で不快な離脱症状となる可能性がある 患者は離脱の進行と共に、改善された気分や認知能力を伴った身体と精神の健康に気づく。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「ベンゾジアゼピン離脱症候群」の詳細全文を読む 英語版ウィキペディアに対照対訳語「 Benzodiazepine withdrawal syndrome 」があります。 スポンサード リンク
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