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忘れられた記念日〔バージェン・エヴァンス「浴槽奇談」『ナンセンスの博物誌』原田敬一訳、毎日新聞社、1961年、183ページの訳語による。〕(わすれられたきねんび、)は、1917年にアメリカの批評家H・L・メンケンが新聞紙上で発表したコラムの表題である。アメリカにおけるバスタブ普及の歴史をたどったこのコラムはメンケンが冗談で書いたものであり、内容は全くの虚構であった。しかし真に受けた読者は多く、後にメンケン自身が繰り返し否定したにもかかわらず、コラムの記述はさまざまな文献において真実として紹介された。21世紀に入っても史実として取り上げられることがあり、この種の作り話の中でも息の長いものとして知られる。 ==記事== 1917年12月28日、ニューヨークの日刊紙『イヴニング・メイル(Evening Mail)』紙に「忘れられた記念日(A Neglected Anniversary)」と題するコラムが掲載された。コラムは冒頭で、12月20日はアメリカにおいてバスタブが初めて据え付けられた記念の日であるにもかかわらず、人々から忘れられている、と指摘した。コラムによれば、アメリカで最初にバスタブを導入したのはシンシナティに住むアダム・トンプソンという名の貿易商だという。仕事で訪問する機会の多かったイギリスでバスタブを知ったトンプソンは、シンシナティの自宅にもバスタブを置くことにした。1842年12月20日、トンプソンはバスタブを設置した後、人々を家に招いてバスタブを紹介し、その様子は地元紙でも大きく扱われた。 トンプソンが設置したバスタブは各界で議論を呼んだ。医学界は不衛生だとしてバスタブを非難し、各地でバスタブの使用を禁止する法案が検討されたり、使用に重税が課されたりした。こうした反対は徐々に薄れていったが、何よりもバスタブの普及を後押ししたのは、第13代大統領のミラード・フィルモアがホワイトハウスにバスタブを設置したことであった。遊説中にシンシナティを訪れ、トンプソン邸でバスタブを目にしたフィルモアは、1851年にバスタブをホワイトハウスに設置した。これを契機にバスタブは普及し始め、1860年にはニューヨークのどのホテルにもバスタブが備え付けられるようになったという〔A Neglected Anniversary (text) 〕。 しかし、コラムの内容は全くの虚構であった。コラムを書いたH・L・メンケンは、1899年にボルチモアで新聞記者となり、以降、記者として活動してきたが、第一次世界大戦が始まり、ドイツへの反感が高まると、ドイツ系で〔「海外文化ニュース アメリカのジャーナリスト――H・L・メンケン」『みすず』第29巻第9号、みすず書房、1987年10月、53ページ。〕、心情的にもドイツ寄りのメンケンは時事記事を書きづらい状況となっていった。『イヴニング・メイル』紙の友人の依頼で同紙に掲載するコラムを書くことになったが、友人からは戦争の話題には触れないように注意され、メンケンは戦時の荒んだ空気の中で、気晴らしになるような荒唐無稽な内容のコラムを何本も書いた。「忘れられた記念日」もそうしたコラムの一つであり、メンケン自身は、内容がでたらめであることは読者には明白であると考えていた。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「忘れられた記念日」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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