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アルクビエレ・ドライブ(Alcubierre drive)は、メキシコ人の物理学者〔カタカナ音記はWIRED.JPの記事「光速での宇宙旅行が可能に?」 による〕が提案した、アインシュタイン方程式の解を基にした空想的アイディアである。これによれば、もし負の質量といったようなものが存在するなら、ワープないし超光速航法が可能となる。 発表〔Miguel Alcubierre, "The warp drive: hyper-fast travel within general relativity" Class.Quant.Grav. 11 (1994) L73-L77 〕以来、それを基にした論文がたびたび発表され、物理学界の片隅で今なお議論が行われているテーマである。 == 概要 == アルクビエレのアイデアは、直感的に表現すると船の後方で常に小規模なビッグバンを起こしつつ船の前方で常に小規模なビッグクランチを生じさせ、光より速く船を押し流すような時空の流れを生み出そうというシンプルかつダイナミックなものであった。川にボトルシップを浮かべ、進行させたい方向とは逆である船体後方水面に投石し、流していくようなイメージである。シャクトリムシの移動イメージにも似ている。 これに対し1997年、タフツ大学のMichael J. PfenningとL. H. Fordは「時空歪曲という工程が、宇宙にある全エネルギーの100億倍のエネルギーを要すため現実ではワープは理論上、実現不可能」という趣旨の論文〔Michael J. Pfenning, L.H. Ford, 'The unphysical nature of "Warp Drive"' Class.Quant.Grav. 14 (1997) 1743-1751 〕を発表した。光速を超えるような大きな時空の伸縮は現在知りうる物理学の範囲では、たとえ小規模でもエネルギーがかかりすぎるという結論である。 しかしアルクビエレのワープドライブは数ある超光速航法に関する論文の中でも比較的現実味があり、原案が否定され他にも様々な問題点が見つかった今に至っても改良案や応用案がたびたび議論されている。 ところで、アルクビエレのワープドライブは亜空間の泡を用いる『スタートレック』式のワープを通常の宇宙で既存の物理学理論を用いて試みたものであり、ワームホールや並行宇宙、亜空間や超空間などに触れるものではない(『スタートレック』では亜空間を使用している為、可能になっている)。亜空間や超空間、並行宇宙などは今のところあるかもしれないとしか言えないような空想の産物でしかなく、判明しているないしは事実から予想される範囲の物理的事象を計算を用いて表現する物理学理論に組み込めないからである。アルクビエレのワープドライブは、現在のところ誤差0.1%の精度で検証されている一般相対性理論のみを用いて(あまり大それた仮説は用いずに)考案されている。 とはいえ、アルクビエレの行った議論の帰結はただ漠然と「ワープは物理の原理的には可能であろう」と言っているだけである。さらにこれに対する否定案や改良案は実験的に検証されていない研究中の仮説をいくつも含むものである。つまりここで展開されている議論は、今のところ「現代物理学を用いて記述される超光速航法の雛型案」というテーマのもとで行われる単なる机上の応酬の1つに過ぎない。さらに、このような議論はダイソン球などと同じく物理法則が許す事柄を殆ど実現できてしまう『十分に進歩した宇宙文明』において実現が可能かどうか考察するのが通例である。将来仮にワープの実現性が高まったとしても、よほどのブレイクスルーが無い限りその実験的検証(そして可能とわかればその実用化)はレオナルド・ダ・ヴィンチのノートの中のヘリコプターと同じように遥か遠い未来の出来事となる。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「アルクビエレ・ドライブ」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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