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空力ブレーキ(くうりきブレーキ)とは、空気力学的な力(空気抵抗)を利用する制動方法。空気抵抗は流れに対する物体の投影面積に比例すると共に、速度の2乗に比例するため、高速で動く物体のスピードを効率よく落とすために使われる。なお、空力ブレーキは分野によって呼び名が変わることがある。 == 宇宙機 == 宇宙開発分野では、大気圏突入における「大気圏」より高層の希薄な大気を利用したブレーキが、エアロブレーキング (aerobraking, aerodynamic braking)・大気制動・空気制動などといった名称で知られる。その名称通り、大気が存在する場合に使用可能となる制動方法である。以下はこの高層大気におけるブレーキングについて述べる。 惑星探査機や再突入カプセルでは惑星の大気を抗力として用いることで、惑星との相対速度の差を減らす。なお、いったん少量の燃料を使って高い軌道へ投入した後、大気抵抗を利用して徐々に軌道を下げる手法をエアロブレーキ(aerobraking)と呼び、惑星到着時に直接大気に突入し、一気に減速して軌道へ投入する方法をエアロキャプチャ(aerocapture)と呼ぶ〔「惑星探査に用いるエアロアシスト技術の開発」JAXA研究開発本部広報誌『空と宙』No.49, pp.4-5, 2012 Sep./Oct. 〕。また、空力ブレーキは、地球周回軌道で軌道速度を減衰させて大気圏に突入するためにも利用されている。 どの程度濃厚な大気でそれを行うかにもよるが、空力ブレーキは、衝撃加熱によって宇宙機の運動エネルギーを機体のすぐ前方の大気の熱エネルギーへと変換するため、効率がよい。ただし、空力ブレーキを惑星再突入時に利用するには、機体を空気力学的に最適な形状に加工しなければならず、減速による強力な加速度にも耐えなければならない。更には十分な熱遮蔽も必要となる。これに失敗すると、機体が破壊されてしまう恐れがある。 ブレーキングなしで大気圏に突入するにはエアロシェルが必要である。 世界で初めてエアロブレーキによる軌道制御に成功したのは日本の「ひてん」である。1991年3月19日に、世界で初めてエアロブレーキ時の減速量と加熱量の計測を行い、惑星突入時の制動・軌道制御技術としてのエアロブレーキング(制動だけでなく、制御も行ったので正確にはエアロコントロール)技術を初めて確立した。地球の高度125.5 kmを秒速11.0 kmで突入し、1.712 m/s減速した事が確認された。 1993年5月25日には、金星探査機マゼランがエアロブレーキ実験を行い、4日間でペリジ点高度を172kmから140kmまで下げることに成功した。 1997年にはマーズ・グローバル・サーベイヤーが火星軌道投入後の観測軌道への移行時に、太陽電池パネルを翼のように広げたまま火星大気上層部の希薄な大気を通過し遠地点高度を何度も下げた。この手法では宇宙機にかかる熱や圧力が少ないため、アポロの指令船のような形状ではなく、写真にあるマーズ・リコネッサンス・オービターのような複雑な形状でも問題が起きない。この火星軌道投入後の観測軌道への移動のための高度引き下げにはその後も使われており、2001マーズ・オデッセイとマーズ・リコネッサンス・オービターでも使われた。 欧州宇宙機関の金星探査機ビーナス・エクスプレスも観測運用を終了した後、2014年6月18日からエアロブレーキ実験を行う予定。 より意欲的な試みとしては、日本の宇宙科学研究所他の共同で、柔軟構造エアロシェルと呼ぶ、より高層(地球大気の場合で高度70km以上)からブレーキとして機能する構造を持った、柔軟構造大気突入システムというものが開発されている。〔MAAC 柔軟構造大気突入システムの開発 2013年9月19日閲覧〕 空力ブレーキはハードSFにも登場する。アーサー・C・クラークの小説『2010年宇宙の旅』では、ロシアと中国の宇宙船が木星の衛星に到達するために、木星大気を使って減速するシーンが描かれている。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「空力ブレーキ」の詳細全文を読む 英語版ウィキペディアに対照対訳語「 Aerobraking 」があります。 スポンサード リンク
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