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フェミニズム神学 : ウィキペディア日本語版
フェミニスト神学[ふぇみにすとしんがく]

フェミニスト神学とは、キリスト教における解放の神学(Liberation Theology)を特に女性の経験と視点から提唱したものと言うことができる。しかし単に女性の視点からの光を既存の神学に照らすというだけではなく、古代から現代に至る諸文献(聖書含む)に内在する、いわゆる父権制的発想とその影響〔『フェミニスト視点による聖書読解入門』 (F.トリブル/絹川久子他訳 新教新書266 2002年) 「父権制の問題点の指摘や改革は、フェミズムと呼ばれる運動の主なる関心事の一つ フェミニズムは人が人を支配したり従属させたりするすべての形態に反対 特に男の支配と女の従属という形態に反対する 」 *本書28-29頁〕〔『ジェンダーの視点で読む聖書』 (絹川久子 日本キリスト教団出版局 2002年) 「たとえば、神は父性と結びつけてイメージされがちである (略) 父的なものも母的なものも神を表現する豊かなメタファー(隠喩)となり得るが、聖書の神は人間が考えるような性の区別(男性神、女性神といった区別)を越えた存在であることが語られる。」 *『本のひろば』2002年10月号の小原克博書評より〕を明らかにすることによって、最初期キリスト教の姿とメッセージをより豊かに、かつ正確に再構築、復元しようとしている。〔『沈黙の声を聴く - マルコ福音書から』 (絹川久子 日本キリスト教団出版局 2014年) 「聖書に描かれる弱者や女性たち。彼らを抑圧し、彼女たちを社会や人々から遠ざけていたものは何であったのか。当時の社会的背景や慣習を鑑みつつ、マルコ福音書の物語と丁寧に向き合い、テキストを通してイエスが私たちに訴えかけ、呼びかける声に耳を傾ける。」 *出版社による内容詳細〕〔『マルタとマリア - イエスの世界の女たち』 (S.Yamaguchi OrbisBooks 2002年・山口里子 新教出版社 2004年) 「ヨハネ福音書に登場する女性たちに新しい光を投げかけ、彼女たちの生き方、イエスとの関係からまなぶ。」*日本語版裏表紙説明文より。原著はアメリカ・カナダのカトリック報道協会2003年ブックアワード受賞〕〔『マグダラのマリア、第一の使徒 - 権威を求める闘い』 (A.G.ブロック/吉谷かおる訳 新教出版社 2011年) 「罪の女として記憶されてきた女性の初代教会における真の地位を復元し、権威をめぐるジェンダー間の闘争の跡を綿密な考証によって解明した」*帯紙説明文より 
〕〔『新約聖書の女性観』 (荒井献 岩波書店 1988年) 「原始キリスト教における女性の地位は、家父長制の色濃いユダヤ社会やヘレニズム・ローマ社会にあっては例外とも言える独得なものだった。本書は、福音書やパウロ書簡などの女性観を分析して、“女性解放神学”との対話を試みる。」*出版社による説明文〕
 「フェミニスト神学」という言葉を最初に使ったのは レティ・ラッセルである。自著『自由への旅』(1974年)〔『自由への旅 - 女性からみた人間の解放』 (レティ・M・ラッセル/秋田聖子訳 新教出版社 1983年)〕のなかで、「力による主従関係ではなく、対話によるパートナーシップの人間関係」こその意思であると呼びかけた。
女性の視点からの神学的批判は19世紀末のエリザベス・スタントンにまで遡ることができる。スタントンは、『女性の聖書』(1898年)を著して聖書の中の女性差別に注目し、「これは神の言葉を聞きまちがえた男たちの言葉である」と言い切った。出版当初は不評であったが、「聖書は字句通り誤り無き神の言葉」としてきたキリスト教伝来の教えを問い直すきっかけとなった。この流れから、脱キリスト教や、女神崇拝などの新しい霊性の提唱など、様々な動きが出現したが、フェミニスト神学はそこにキリスト教神学としての方向性をもたらそうとしている。〔『ヒルデガルト・フォン・ビンゲン - 女性的なるものの神学』  (B.J.ニューマン/村本詔司訳 新水社 1999年)は、フェミニスト神学者の先駆けとしてのヒルデガルトに言及している。 「ヒルデガルトは、12世紀ドイツの女性宗教家。自然学・医学・薬学・音楽に通じるマルチ人間だった。当時の時代背景と伝統、彼女の思想をたどり、キリスト教が女性原理に貫かれていることを明らかにする。」*出版社説明文より〕
エリザベス・シュスラー・フィオレンツァは、その記念碑的著作『彼女を記念して』(1983年) 〔『彼女を記念して - フェミニスト神学によるキリスト教起源の再構築』 (E.S.フィオレンツァ/山口里子訳 日本キリスト教団出版局 2003年)〕において、キリスト教起源における神の女性イメージや、初期教会における女性指導者たちの重要性など、キリスト教のなかで二千年近くも失われていた歴史を回復・再構築し、その後のフェミニスト神学の一つの道筋を示した。これらを契機として、主に女性神学者〔20世紀後半になってようやく神学校に受け入れられるようになった女性たちは、「伝統的な神学の主張する客観性は、実は西洋白人エリート男性の経験・視点を客観性と同一視して構築されたものである」とし、自らの足場が持つ特定性に自覚的であることの重要性を指摘して「フェミニスト神学は父権制社会における女性の痛みの経験から出発する」と表明した。(参考:『キリスト教教育事典』日本キリスト教団出版局 奥田和弘監修 2010年, 「フェミニズム」の解説)〕によって、伝統的神学に見られる父権制的な枠組みや視点を批判・相対化し、神学の諸方法・歴史・神観・キリスト論ほか、神学全般を問い直す動きが広がっている。〔 『神のジェンダーに関する一考察 ‐ フェミニスト神学との対話を通じて』  *小原克博発表論文より〕〔『女の語る神、男の語る神』 (E.モルトマン=ヴェンデル、J.モルトマン/内藤道雄訳 新教出版社 1994年) 「父権体制のもとで自己形成を行った主体は(略)男性は自ら女性的なものを抑圧し、権威的な父の秩序に一体化して自己形成をし、女性は多くの場合、母子未分化の世界に固着し、そこへの退行を繰り返すマゾヒズム主体にとどまる。(略)相互に依存し合い、お互いの自立的な人間形成を妨害しあう」〕〔『イエス誕生の夜明け - ガリラヤの歴史と人々』 (山口雅弘 日本キリスト教団出版局 2002年) 序論において、イエス誕生の歴史的な場である1世紀のガリラヤを語るための方法論として、最近の社会学・比較文化人類学などの成果を総合的に用いると同時に、「フェミニスト神学の視点を積極的に導入し、ガリラヤの歴史において社会の周辺に追いやられ、(略) 父権制支配のもとに見えなくされていった人々を取り戻していく(p.26)」と述べている。〕〔『虹は私たちの間に - 性と生の正義に向けて』 (山口里子 新教出版社 2008年) フェミニスト神学を援用、「同性愛断罪の根拠とみなされてきた聖書テキストを網羅的に取り上げ、徹底的で緻密な読み直しを試みる」*裏表紙説明文より〕
== 脚注 ==


抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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英語版ウィキペディアに対照対訳語「 Feminist theology 」があります。



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