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マスターコントローラー : ウィキペディア日本語版
マスター・コントローラー
マスター・コントローラー(Master controller,「マスコン」と略される)は、鉄道車両の出力・速度を遠隔制御するスイッチ装置であり、一般に鉄道車両の運転台に設置される。日本語では「主幹制御器」と翻訳される。
鉄道車両の動力源の出力自体を制御する機器は動力車に備えられ、電気車両の場合は「主制御器」と称される。複数の車両の連結運転の必要上、あるいは制御機器の複雑・大型化で運転台とは別に設置されるようになった場合などには、これらの機器は運転台から遠隔操作されることとなる。そのために運転台に設置し、運転者が操作するものが「主幹制御器」「マスター・コントローラー」である〔飯島巌、白井良和、井上広和 『私鉄の車両11 名古屋鉄道』 保育社、1985年、pp.148-149,p.158 及び 飯島巌、青野邦明、荒川好夫 『復刻版 私鉄の車両3 広島電鉄』 ネコ・パブリッシング、2002年、pp.126-128などを参照。〕。運転台からの遠隔操作を行わず、運転台で直接主回路切換えやギヤチェンジなどを行う場合の操作機器には、このような呼称は用いない〔〔電気車両で、主回路切換えを運転者が直接行うものは「直接制御器」(後述)である。内燃車両で、エンジンや変速機の操作をワイヤーやロッドで運転者が直接行うものについても、運転者が操作するものは「スロットル(又は燃料制御ハンドル)」「変速レバー(又は変速ハンドル)」などとなる。〕。
制御器などのハンドルを「自動車のアクセル(アクセルペダル)に当たるもの」とする説明が見られるのは、制御器ハンドルが担う操作が主に力行(加速)だからであるが、それが常にあてはまるとは限らない。マスコンとブレーキが別体のものを「ツーハンドルマスコン」や「ツインレバー型マスコン」と総称するがこれはブレーキも含まれ、一体化させたワンハンドルなら、ブレーキもマスコンと同じハンドル(レバー)ひとつで操作するわけで、この場合でもマスコン=アクセルとはいえなくなってくる。
なお、ブレーキを制御する装置は制動弁(ブレーキ弁やマンス弁ともいう)やブレーキ設定器と呼ばれ、制御されるものは制動弁(設定器のハンドルに直結している弁本体)を直接、またはブレーキ演算装置を間接的に制御する。本項では主にブレーキ設定器の形態に触れるに留め、詳細は鉄道のブレーキに譲る。
現代の電車電気機関車気動車ディーゼル機関車には通常、以下の方式のいずれかが搭載されている。鉄道車両以外では天井クレーンで設置されているものもある。
本項目では便宜上、直接制御器についても説明するが、本来「マスター・コントローラー」「マスコン」あるいは「主幹制御器」という用語には直接制御器は含まれない〔『鉄道ファン』1983年9月号(No.269) pp.110-112〕。鉄道の運転・整備の現場における用語法でも「マスター・コントローラー」や「マスコン」は間接制御における主幹制御器のみを指し、直接制御器を指す場合や、双方を含めて言う場合は「コントローラー」などの語が用いられる〔吉谷和典 『第二すかたん列車』(日本経済評論社、1987年。著者は元大阪市電乗務員) p.203,p.206,pp.209-215 などを参照。〕〔従って、直接制御器を指して「直接制御式のマスコン」と称するのは意味が成り立たない誤用である(後述)。〕。
== 電気車両の制御機構 ==

=== 直接式 ===

モーターの電源となる、架線電流そのものを運転台に引き込み、運転者の力でカム軸を操作し、直接、断続や抵抗器の切り替えを行うものである〔〔小川裕夫 『路面電車で広がる鉄の世界 - チンチン電車と都市計画がわかる本』 秀和システム、2012年、p.76〕。この方式では、運転台の制御器で主回路の切り替えが直接行われ、他に遠隔操作される制御器が存在しないため、運転台の制御器は「主幹制御器」ではなく、「直接制御器」(Direct Controller、ダイレクトコントローラー)と呼ばれる〔〔〔『鉄道ピクトリアル』1994年7月臨時増刊号(No.593) p.74〕。
安易に執筆された文章では、直接制御器を「直接制御のマスコン」「直接制御式の主幹制御器」などと表現しているものが見られることがあるが、いずれも用語の意味を理解していないことによる誤用であり、意味が成り立たない〔用語の意味を理解して執筆・編集された文献ではこのような誤りはない。例えば、1980年代に保育社が発行した『私鉄の車両』シリーズ(2005年にネコ・パブリッシングから復刻版発行)は、上掲の広島電鉄編・名古屋鉄道編を含めいずれも「直接制御器」「主幹制御器」「マスター・コントローラー」等の用語を明確に区分して使用しており、上記のような誤用はない。直接制御器・主幹制御器を含めて運転台の制御器全般を指す場合は、単に「制御器」「制御器ハンドル」「コントローラー」などと表現している。吉谷和典 『第二すかたん列車』(日本経済評論社、1987年)における用語法も同様である。〕〔直接制御器を解説する際、誤って「この主幹制御器(あるいはマスコン)はXXXX形直接制御器である」と記述してしまうと意味の成り立たない誤文となってしまう。正しい表現は、「この制御器(あるいはコントローラー)はXXXX形直接制御器である」となる。〕〔西野保行は、『鉄道ピクトリアル』1993年3月号(No.572)の掲載記事「「プレートガーター」ではありません。「プレートガーダー」です。- 施設用語を正確に」において、鉄道ファン等の間に広まった誤った用語法の例を挙げ、用語の正確な理解の必要性を説いている。〕。
直接制御器の歴史は、1870年代ドイツシーメンスによって発明された最初の電気機関車にまで遡ることができる。
モーターによる電動カム軸式などに比べ、構造が単純で反応が素早い利点があり、力行中断・再力行を繰り返す路面電車などではその利点が活用されることも多い〔〔〔吉谷和典 『第二すかたん列車』(日本経済評論社、1987年) p.203,pp.213-214,p.264〕。ただ、操作力は大きく体力を要する〔『鉄道ピクトリアル』1994年7月臨時増刊号(No.593) p.82〕。また、コントローラー内のスイッチ接点に架線電圧が直接かかるため、特に外装部の絶縁処理に注意を要し、さらに運転台に置かれるため、コントローラー本体の体積(ケースの容積)や接点の寸法などには物理的な限界があり、大電流への対応や一定以上の多段化が困難である。
後述の間接非自動制御とも共通するが、ノッチ進段を運転者の判断・感覚で手動で行うため、進段が早すぎた場合や誤ってノッチを飛ばしてしまった場合、主回路に過大な電流が流れ、保護機構が作動して力行が中断してしまうことがある〔吉谷和典 『第二すかたん列車』(日本経済評論社、1987年) p.165〕。
架線電流を引き込む構造上、集電装置を持たない非電動車からの遠隔制御や、2両以上の総括制御には不適であり〔車両間に架線電圧を扱うジャンパ線を引き通せば、物理的には一応可能であり、過去には蒲原鉄道などで直接式制御器搭載の小型電車に制御車を連結するために用いられた例があった。また、広島電鉄70形電車がそうであるように、電装品の絶縁処理やスイッチ機構の小型化に自信があったヨーロッパ、特にドイツのメーカーでは、2/3車体連接式の路面電車に超多段式の直接式制御器を搭載するケースが少なからず存在した(広島電鉄70形電車の例について、飯島巌、青野邦明、荒川好夫 『復刻版 私鉄の車両3 広島電鉄』 ネコ・パブリッシング、2002年、p.128 を参照)。〕、連結総括制御を行わない用途の車両に用いられる。比較的小型の電気機関車や、路面電車のうちもっぱら単行運転を行う車両などに多い。車体更新を受けている路面電車車両でも、制御器は従来の直接制御器が引き続き使用されているケースもある(土佐電気鉄道2000形電車熊本市交通局8500形電車鹿児島市交通局9500形電車など)。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
ウィキペディアで「マスター・コントローラー」の詳細全文を読む



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