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社会選択理論において、アローの不可能性定理(アローのふかのうせいていり、)とは、投票ルールをはじめとする集合的意思決定ルールの設計の困難さに関する定理である。経済学者ケネス・アローが彼の博士論文および著書 ''Social choice and individual values''(『社会的選択と個人的評価』)で明らかにしたこの定理は「不可能性定理」と呼ばれることが多いが、アロー自身は "General Possibility Theorem" (Arrow, 1963, page 59) と呼んでおり、歴史的にはアローの(一般)可能性定理とも訳されていた。単にアローの定理 (Arrow's theorem) と呼ばれることもある。 アローの定理は、選択肢が3つ以上あるとき、いくつか挙げられた望ましい条件 (定義域の非限定性、全会一致性、無関係な選択対象からの独立性、非独裁性) をすべて満たす「社会厚生関数」 (社会的厚生関数、social welfare function) を見つけることはできないことを主張する。この場合の社会厚生関数とは (古典的なバーグソン‐サミュエルソン型のものとは異なり) 個人の選好関係 (選択肢に関するランキング) を各人について列挙した「一覧」である「選好プロファイル」を社会全体の選好関係に移す関数である。この定理は18世紀以来知られていた投票のパラドックス (コンドルセのパラドックス)、そしてその他の望ましくない現象が多くの意思決定ルールで起こりうることを数学的に証明したものとも言える。しかしアローがとったアプローチである公理的方法は、あらゆる社会厚生関数をいっぺんにあつかうなど過去のアプローチと比べて異質であり、現代版の「社会選択理論」という学問分野 (パラダイム) は、事実上この定理によって始まったと言える。 == 概要 == アローは 人の有限人個人からなる社会の構成員全員の選好関係 の列 (「選好プロファイル」) を独立変数とし、「社会選好」とよばれる選好関係 を従属変数とする関数を考え、 それを「社会厚生関数」(選好集計ルール) と呼んだ。ここで社会選好 は次の2つの公理を満たすことを仮定する (ただし は選択肢 が 以上にランクされる (好ましい) ことを表す; は数の不等号とは異なる; 記号 の代わりに「関係」(relation) を表す R の文字が使われることも多い): *完備性. 任意の2つの選択肢 , に対し、 もしくは が成立する。すなわち が 以上に望ましいか、 が 以上に望ましいかのいずれかである。(このうち前者だけが成立するとき と書き、 が よりも好ましいことを表す。後者だけが成立するとき () は、 が よりも好ましい。いずれも成立するときは と は無差別という。記号 の代わりに「より好む」(prefer) を表す P の文字が使われることも多い。なお「反射性」すなわち任意の選択肢 にかんして が成立することは,完備性から導かれる。) *推移性. 任意の3つの選択肢 , , にたいし、 かつ ならば となる。すなわち が 以上に望ましく、 が 以上に望ましければ、 は 以上に望ましい。 選好関係がこれら2つの公理を満たすならば、選択肢が何個あろうともそれが有限個である限り、最も良い選択肢(1個とは限らない)を選ぶことができる。 その意味でこのような選好関係は「合理性」を持つと言える。 そしてアローは、社会厚生関数が下記の4条件 (これらもしばしば「公理」とよばれる) をみたすことが「民主制」にとって不可欠であるとした。 *定義域の非限定性 (普遍性). 社会を構成するそれぞれの個人は、完備性・推移性を満たす限りどのような選好をも持ち得る。(すなわち個人選好 が上記の公理をみたすことのみを仮定。この条件は「社会厚生関数」の定義にふくまれることも多い。) *全会一致性 (パレート原則). 社会の全員の選好が「x は y よりも望ましい」と一致している場合、社会選好も「x は y よりも望ましい」となる。(すなわち「すべての個人 について 」ならば, となる。) *無関係な選択対象からの独立性. 選択肢 x と y にかかわる社会選好が、それらふたつの選択肢にかんする個人の順序づけのみで決まる。すなわちその他の選択肢 z に関する個人的選好によって左右されない。(すなわち が成立しているかどうかを知るためには、それら特定の , について、 と のいずれ,あるいは両方,が成り立っているかをすべての個人 について記述したデータがあれば十分である。) *非独裁性. 構成員の中に「独裁者」(そのひとが x を y より望ましいとしたときは、かならず社会選好でも x が y より望ましくなるような個人) が存在しない。(すなわち「任意の選好プロファイルについて、もし ならば, となるような」個人 が存在しない。) アローの定理とは、3つ以上の選択肢があるとき、上述した社会選好に関する2つの公理と民主制のための4つの条件をすべて満たす社会厚生関数は存在しないことをしめした定理である。すなわち社会が選択肢を合理的に選べるための 2つの公理 (社会選好が完備で推移的であること) と民主的決定のための 4条件とは互いに矛盾することを示した。 この否定的結論は「社会的決定の合理性と民主制の両立は困難である」とか「民主主義は不可能である」といった (それ自体は誤りとは言えない) 主張に単純化されて理解されることもあった。 定理の内容が正しく理解されたにせよそうでなかったにせよ、 この定理が「一般意思」「社会的善」「公共善」「人民の意思」といった主張に疑いを投げかけたことはまちがいない〔フェルドマン, セラーノ, 2009, 294頁。〕。 この定理をアロー自身は「一般可能性定理」と呼んだ。しかしこの定理のもつ否定的含意から、「アローの不可能性定理」と呼ばれるのが一般的となった。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「アローの不可能性定理」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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