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労働基準(ろうどうきじゅん)という語は、一般的には、労働者を保護するために確保されるべき労働条件の最低基準であって、法令又は条約により定められたものを指す。狭義の労働基準には、現に使用されている労働者に関するもののみが含まれるが、広義の労働基準には、労働法立法過程における政労使三者協議、労働行政機構のあり方、雇用・職業に関する差別の排除、社会保障、雇用促進、職業訓練等に関すること等労働に関することすべてに関する基準が含まれうる。本項では、主に狭義の労働基準について解説する。狭義の労働基準について定める法令は、個別的労働関係法、労働保護法、労働基準関係法令などに分類される。 ==日本の労働基準== 現代の日本における労働基準は、日本国憲法の規定(第18条、第27条第2項ほか)及びILO条約等にもとづいて、法令によって、主に労働者、使用者又は事業者の権利義務として定められ(ただし、労働者派遣においては、労働者派遣法の定めるところにより、使用者及び事業者たる派遣元事業者に課せられた義務の一部が派遣先事業者に委譲される)、その履行確保は、労使当事者の努力はもとより、民事的強行法規性、違反者に対する刑事罰、国の行政警察活動(立入検査、報告徴収、許認可、不利益処分等)により図られている。 現代の日本における労働基準関係法令としては、労働基準監督官等が監督を行う労働基準法、最低賃金法、じん肺法、炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法、労働安全衛生法、作業環境測定法、賃金の支払の確保等に関する法律及び家内労働法の8法(この8法については労働基準監督官が犯罪捜査を行う。)、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法等の法律並びに自動車運転者の労働時間等の改善のための基準等の法規命令、雇用均等行政において行政指導及び行政処分を行う雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律等の法律、民事の場における個別労働関係の安定及び紛争解決ための民法、労働契約法、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律等が挙げられる。 労働基準法は、上記法令の中でも、労働基準に関する基本法と言うことができる。即ち、労働者〔労働基準法 第9条〕、使用者〔労働基準法第10条〕、賃金〔労働基準法第11条〕等個別的労働関係における諸概念について定義し、他の多くの労働基準関係法令がこの定義に準拠している〔最低賃金法 第2条, じん肺法 第2条第1項, 炭鉱災害による一酸化炭素中毒症に関する特別措置法 第2条, 労働安全衛生法 第2条, 賃金の支払の確保等に関する法律 第2条, 公益通報者保護法 第2条第1項〕。 労働基準法は、後述の適用除外された者以外のすべての労働者について適用があり、労働者を使用する事業についても、法人個人、営利非営利の別を問わない。さらに、労働基準法上の労働者性の判断は、契約その他一切の形式に関わりなく、実態により客観的に判断される。即ち、例えば明示的には雇用契約を締結せず、そのかわりに形式上・表面上は請負、業務委託等の契約を締結していても、実態として時間的に拘束され、仕事内容の具体的指示を受けていること等の労働者たる諸要件(=使用従属性)が認められる者は、労働基準法上の労働者としての保護を受ける。労働者性は、第一に従事する作業が指揮監督下にあるかということ(使用者が業務遂行につき具体的な指揮命令を行うこと、時間的・場所的拘束を行うこと等)、第二に報酬の労務対償性により判断すべきものとされており、その判断基準は労働基準法研究会報告〔労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)昭和60年12月19日 〕及び労働者性検討専門部会報告〔労働基準法研究会労働契約等法制部会 労働者性検討専門部会報告 平成8年3月 〕に詳しい(ただし、労働組合法等における「労働者」の意義は労働基準法のそれとは異なり、当然、判断基準も異なるので注意されたい。)。 また、作業の指揮監督性が弱いために労働者とまでは言えないものの、報酬の労務対償性が強いとされる家内労働者(いわゆる「内職」)については、家内労働法により、若干ながら労働者に準じた保護が図られている〔家内労働法 〕。 労働基準法の適用単位は、事業場である。事業場とは、一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体を意味し、例えば、工場、店舗、支店、営業所などの事業単位を意味する。ただし、新聞社の通信部等規模が著しく小さいものについては直近上位の事業場に一括して取扱い、また、同一場所におけるものでも例えば工場内の診療所、食堂等のように、その管理が全体から明確に区別された部門については、これを独立した一事業場として扱うことにより法がより適切に運用できる場合においては、独立した一事業場として取扱うこととされている〔厚生労働省労働基準局 『労働法コンメンタール③ 労働基準法 上』 株式会社労務行政、2011年、111-112頁。ISBN 978-4-8452-1262-0。〕。 労働基準法の主たる名宛人は使用者であるが、使用者の範囲には、事業主はもとより、事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者が含まれる〔一方、労働安全衛生法の主たる名宛人である事業者は、個人事業である場合はその事業主、法人事業である場合はその法人であり、営業利益の帰属主体そのものに安全衛生上の義務を課している〔昭和47年9月18日発基第91号〕。日本においては、このように、労働基準の履行確保義務は第一に労働者を直接使用する事業(使用者ないし事業者)に課されており、労働法制一般は労働と請負とを峻別して構築されているが、一方で、建設業及び造船業に関しては、元方事業者(殆どの場合、元請負人がこれに該当する)にも下請会社の労働者に関する安全衛生上の措置義務(特別規制等)を負わせ〔労働安全衛生法第31条等〕、建設業に関しては元請負人が災害補償を行うこと〔労働基準法第87条〕とされているなど、一部で例外もみられる。この混乱は、戦前の雇用法制において労働者供給請負業を認めていたこと、戦後も労働者供給請負業が建設業界等において広く事実として存在してきたことによる〔「請負・労働者供給・労働者派遣の再検討」濱口桂一郎 〕。 労働基準関係法令(家内労働法も含む。)に関する監督機関(法の履行確保のための行政監督を行う行政機関)は、原則として国の機関たる狭義の労働基準監督機関(厚生労働省労働基準局長、都道府県労働局長、労働基準監督署長及び労働基準監督官並びに厚生労働省雇用均等・児童家庭局長及びその指定官吏)である〔労働基準法第11章〕が、後述するように国家公務員、地方公務員、船員、鉱山における保安等については、例外として、他の機関が行政監督を担っている(これらをすべてまとめて広義の労働基準監督機関と呼ぶことができる)。 労働基準関係法令の適用の除外は、非常に複雑である。後に詳述するが、第一に、ごく一部の法令を除き、同居の親族については適用されない〔ただし、家内労働者の補助者について、家内労働法の適用がある〕。第二に、管理監督者、機密の事務を取り扱う者等の地位にある者については、労働時間、休憩及び休日に関する規制の適用が除外される。第三に、事業の種類により、労働時間および労働安全衛生に関する規制の範囲が異なり、例えば、鉱山における保安については、労働安全衛生法の規定が一部を残して適用除外となっており、行政監督も経済産業省の産業保安監督部が行っている。第四に、船員、国家公務員、地方公務員等特別の雇用にある者については全部又は大半の法令・規定について適用除外となっており、それらの者については法令も別途整備され、監督機関も別途設けられている。また、このほか、細かい適用除外が存在する。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「労働基準」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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