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反知性主義 : ウィキペディア日本語版
反知性主義[はんちせいしゅぎ]
反知性主義(はんちせいしゅぎ、英語: Anti-intellectualism)とは、知的権威やエリート主義に対して懐疑的な立場をとる主義・思想〔(ホフスタッター p.3-17)〕〔(森本 p.261-)〕。言葉自体は1950年代のアメリカで登場したとされ〔(ホフスタッター p.3)〕、その後、リチャード・ホフスタッターが『アメリカの反知性主義』(Anti-intellectualism in American Life、1963年)で示したものが知られる〔(森本 p.5)〕。
一般には「データやエビデンスよりも肉体感覚やプリミティブな感情を基準に物事を判断すること(人)」を指す言葉として思われているが、実際にはもっと多義的な観点を含む〔アメリカを動かす「反知性主義」の正体 日経ビジネスONLINE 2015年4月24日〕。また、その言葉のイメージから、単なる衆愚批判における文脈上の用語と取られることも多いが、必ずしもネガティブな言葉ではなく、ホフスタッターは健全な民主主義における必要な要素としての一面も論じている〔(森本 p.5-6)〕。むしろ、知的権威、エリート側の問題を考えるために反知性主義に立脚した視点も重要だとも説く〔(ホフスタッター p.343-)〕〔(森本 p.5-6)〕。
== 反知性主義の登場と意味合い ==
反知性主義という言葉がにわかに登場したのは1950年代、特にマッカーシーの赤狩りや、1952年アメリカ合衆国大統領選挙を背景としたものが挙げられる〔(ホフスタッター p.3-4)〕。このアメリカ大統領選挙では、政治家としての知性、キャリア、家柄とどれをとっても遜色なく、元弁護士で弁舌の腕もたち、知識人からの人気も高かったアドレー・スティーブンソンが、コロンビア大学の学長かつ元アメリカ陸軍参謀総長という要職を務めた第二次世界大戦の英雄といえど、政治経験は皆無でおよそ知的洗練さを表に出さず、むしろ政治家でないことをアピールして大衆の支持を得たドワイト・D・アイゼンハワーに圧倒的大差で敗れており、反知性主義の象徴的な出来事として挙げられる。
また、マッカーシーやその支持者達は対共産主義という枠を超えて大学教授や、知識人の家系といった知識人層を攻撃した。このように反知性主義とは反エリート主義の言い換えといった側面がある〔(ホフスタッター p.3-4)〕。
1963年、ホフスタッターは著書『アメリカの反知性主義』においてニューイングランドの成立からのアメリカ史を引用して反知性主義の成り立ちを考察し、言葉が登場した50年代より前から反知性主義は存在し、むしろアメリカ社会・政治体制において重要なものであること論じた〔(森本 p.5)〕。これによってホフスタッターは2度目のピューリッツァー賞を受賞している。
その語感より、しばしば誤解されるが、反知性主義に対置するのは知性そのものというよりは、先述の大統領選のエピソードのように知的権威やエリートとされる層である。データやエビデンスよりも肉体感覚やプリミティブな感情を基準に物事を判断するといった面も間違いではないが〔、古くは聖書理解において高度な神学的知識を必要と考える知的権威や、時代が下がれば政治においてはエリートによる寡頭政治(貴族政治)を志向する層への反感が反知性主義の原点であり、ただ単純に知性そのものを敵視する思想信条ではない〔(森本 p.4)〕。むしろ、エリート層が軽視する大衆の「知性」を積極的に肯定するといった立場をとり、それは単純に近代合理主義批判の肯定や、科学的思考を軽視するという意味でもない〔(ホフスタッター p.7)〕〔(森本 p.4)〕。神意や真理を理解するのに高度な知識は必要ではない、政治において学術理論や理想論が先行して現実を無視した政策を行わない、このようなエリート主義に対する批判という観点も含むのである〔(森本 p.259-)〕。
このように反知性主義が必ずしもネガティブな言葉ではないように、知的権威や知識人、エリートという言葉も反知性主義の文脈上では必ずしも肯定的な意味ではない。ホフスタッターは知識人の立場として反知性主義者に攻撃される側として論説するが、序章において知識人を迫害される憐憫な対象として擁護する気はないと明言しており〔(ホフスタッター p.18)〕、その終章も反知性主義ではなく知識人の在り方を考察するものである〔(ホフスタッター p.343-)〕。
ただし、反知性主義という言葉を定義付けたとされるホフスタッターでさえ、それが曖昧な語義の用語であることを認めており〔(ホフスタッター p.3-)〕、単純に論敵を非難するバズワードとして使用される場合も多い。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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