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扶養義務 : ウィキペディア日本語版
扶養[ふよう]

扶養(ふよう)は、老幼、心身の障害、疾病、貧困、失業などの理由により自己の労働が困難でかつ資産が十分でないために独立して生計を営めない者(要扶助者)の生活を他者が援助すること〔中川高男著 『親族・相続法講義』 ミネルヴァ書房、1995年6月、294頁〕〔於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、723頁〕。扶養関係において、扶養を受ける権利のある者(民法第878条)を扶養権利者、扶養をする義務のある者(民法第878条)を扶養義務者、実際に何らかの援助を受けて扶養されている者を「被扶養者」(健康保険法第1条、介護保険法第7条第8項第6号)と呼ぶ。扶養に関連する法領域を扶養法という。
== 扶養一般 ==

=== 扶養制度の沿革 ===
; 私的扶養
家父長制の下で、家長は家の経済的基礎となる家産を排他的に管理するとともに親族は家業の労働に就き、それと同時に親族の生活保障は家長の責任とされていたが、時代が下って親族的集団の分化が進み、人々が家の外で収入を獲得するようになると個々の生活保障は夫婦関係・親子関係を中核とする自立保障を建前とするようになっていった〔我妻栄著 『親族法』 有斐閣〈法律学全集23〉、1961年1月、401頁〕〔泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、296頁〕。そして、その他の親族の扶養関係については主として習俗的・道徳的な規範に基づいて規律されるようになった〔。しかしながら、扶養義務は親族関係が密な社会においては法的義務としなくとも自然債務的に履行されるものであるが、それが希薄となって扶養義務の履行が期待できなくなる場合には一定の範囲の親族に対して法的な扶養を義務付けねばならなくなるとされる〔於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、724頁〕。なお、扶養法における扶養は理想としての基準を定めたものではなく扶養義務の最小限度を定めたものにすぎないとされる〔於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、724-725頁〕。
; 公的扶養
近代資本主義社会においては、労働力再生産の観点から企業が使用人と家族の生活の維持について一定の役割を果たすようになり、家族扶養手当制度、健康保険制度、労働災害保険制度、社会保険制度などの扶養制度(社会的扶養)が設けられるようになった〔於保不二雄・中川淳編著 『新版 注釈民法〈25〉親族 5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1994年4月、472頁〕。
また、生活困窮者の増大は社会不安をもたらすことから、生活保護制度などの国家扶養制度も設けられるようになった〔。本来、公的扶養は貧民の救済を目的としたものであり〔泉久雄著 『親族法』 有斐閣〈有斐閣法学叢書〉、1997年5月、298頁〕、日本では1874年(明治7年)12月に恤救規則1932年(昭和7年)に救護法1937年(昭和12年)に母子保護法1945年(昭和20年)に軍事扶助法が制定された。そして、戦後、日本国憲法第25条の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」(第1項)と「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(第2項)の理念のもとに生活保護法が制定された。この日本国憲法第25条は生存権について明規したもので画期的なものであった。国家扶養に対する考え方によっては究極的にはすべての資源を国家が統合して国民に分配すべきということになりそうだが、日本国憲法は私有財産制を保障していること(日本国憲法第29条)、日本国憲法第27条1項が勤労権について定めていること、個々の労働・財産の取得には幸福追求としての側面があること(日本国憲法第13条)などから、あくまでも個人の自由な資産形成と自立自助が基本原則とされる〔。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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