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日本の財政問題とは、日本政府(地方自治体を排除するものではない)が抱える財政上の問題のことである。2014年現在、日本政府の予算は、歳出(支出)が大きく歳入の約半分を国債発行による収入で占めている〔2014年の予算は、税収=50兆0010億円、国債発行=41兆2500億円、税外収入等=4兆6313億円。時事ドットコム:【図解・行政】2014年度予算の構成比(2014年3月) 〕。2009年度すでに、国債の利払いだけでも税収の2割以上となっており、社会保障費の抑制など歳出削減が急務となっている〔国債利払い、21年度20兆円に倍増 財務省試算(日本経済新聞HP) 〕。公債残高は1994年度で200兆円、2004年度で500兆円であったが、2013年度で750兆円に達した。利払い費は、1990年代に10兆円以上で推移していたのが、長期金利の抑えこみに伴い2005-2006年度に7兆円という底を打った。しかし、世界金融危機を経て漸増し、2012年度に8兆円となり、2013年度には10兆円寸前まで反発した〔岩田一政『量的・質的金融緩和』日本経済研究センター 2014年6月 p.94.〕。 == 経緯 == 日本は明治維新後から戦後復興まで、第一次世界大戦の戦争特需の一時期を除き、一貫して債務国であった〔麻木久仁子・田村秀男・田中秀臣 『日本建替論 〔100兆円の余剰資金を動員せよ!〕』 藤原書店、2012年、207頁。〕。日清戦争後の軍拡、日露戦争によって外債などの借金が累積したが、第一次世界大戦に伴った輸出の増大(バブル)によって累積債務は一時的に解消した〔伊藤修 『日本の経済-歴史・現状・論点』 中央公論新社〈中公新書〉、2007年、43-44頁。〕。 1942(昭和17)年当時の増税問題として、社会保障費以上に戦費を取り上げて増税が進められたが、「平時の論理から云えば、現行租税が財界に適応するに至るまで増税を暫く見合はすのが常道であるかも知れない」点が指摘され、国家財政のみならず地方財政をも併せ考慮に入れて解決に当たらなければならない点も指摘されていた〔新予算と増税問題(京都帝國大學經濟學會) 〕。 第二次世界大戦当時の1944年度末において国の債務残高は国内所得の260%を超える水準であった〔真壁昭夫 終戦直後のような預金封鎖は本当に起きるのか? 国民に浸透した「超財政悪化不安」の現実味と対策 ダイヤモンド・オンライン 2014年7月1日〕。経済学者の伊藤修は、戦後直後の債務の対GDP比は、250%を超えていたと推測している〔伊藤修 『日本の経済-歴史・現状・論点』 中央公論新社〈中公新書〉、2007年、257頁。〕。 日本銀行の調査によれば、1934-1936年の消費者物価指数を1とした場合、1954年は301.8と8年間で物価が約300倍となった〔田中秀臣 『デフレ不況 日本銀行の大罪』 朝日新聞出版、2010年、135頁。〕。このインフレーションの原因は、戦前から戦中にかけての戦時国債、終戦後の軍人への退職金支払いなどの費用を賄うために政府が発行した国債の日本銀行の直接引き受けとされている〔。第二次世界大戦中に発行した戦時国債は、デフォルトはしなかったが、その後対戦前比で3倍ともなるハイパーインフレーション〔木立順一 『黄金の国 悠久の心の文化の歴史から目指す未来像』 メディアポート、 ISBN 978-4865581096。〕(4年間で東京の小売物価は終戦時の80倍)によってほとんど紙屑となった〔森永卓郎 『日本経済50の大疑問』 講談社〈講談社現代新書〉、2002年、177-178頁。〕。この反省から、1947年に財政法が誕生した。 戦後日本の財政の歴史は、経済成長によって財源が確保されてきた〔経済成長も、再分配も—消費税増税延期が及ぼす影響とは? /駒崎弘樹×飯田泰之×荻上チキ SYNODOS -シノドス- 2014年12月2日〕。戦時国債以降で日本がはじめて国債を発行したのは、いわゆる「昭和40年不況」にあった1965年であった。以降毎年のように財政法4条に基づく建設国債が発行されるようになった。「赤字国債」と呼ばれる特例国債が初めて発行されたのは1975年で、第一次石油危機に端を発するオイルショックによる不況が最大の要因であった。以後日本政府は毎年のように赤字国債を発行するようになり、「赤字国債脱却」が財政問題として挙げられるようになった。 その後バブル景気により1990年までは歳出・税収とも上昇の一途を辿り、バブル経済の絶頂期と前後して1990年には一時的に赤字国債脱却を達成するも〔1990-1993年度までは、赤字国債の発行はゼロであった(松原聡 『日本の経済 (図解雑学シリーズ)』 ナツメ社、2000年、110頁。)。〕、バブル期の終焉を境に税収が下降に転じ、一方でバブル崩壊以降、景気対策として多額の財政支出や赤字国債の発行などが度々行われるようになり、歳出は依然として上昇を続けていった。また、景気対策として行われた大規模な所得税・法人税の減税が、税収の一段の落ち込みをもたらした〔第一勧銀総合研究所編 『基本用語からはじめる日本経済』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、144頁。〕。 1995年の村山内閣で、武村正義元大蔵大臣は、「財政危機宣言」をしている〔第1回 中期的な財政運営に関する検討会 議事要旨 〕〔第51回滋賀中部政経文化懇話会 講師に武村正義氏 滋賀報知新聞 2011年11月16日〕。 橋本龍太郎内閣は、1985年のアメリカのグラム・ラドマン法にならって財政構造改革法を制定し、期限を設けて消費税率2%引き上げ・所得税の特別減税の打ち切り・医療費の自己負担の引き上げを行い(総額9兆円程度の国民負担の増加)、財政赤字を縮小させようとした(不況の深刻化によって後に停止する)〔伊藤修 『日本の経済-歴史・現状・論点』 中央公論新社〈中公新書〉、2007年、152頁。〕。 1980年代には概ね対GDP比60%超の水準にあった政府の債務残高はバブル崩壊を機に急激に上昇し、1997年頃には対GDP比が100%を突破。度重なる資金注入でも日本経済は低迷を続けたため、2001年頃には150%を超える水準にまで到達した。 2000年代半ばにはいざなみ景気や骨太の方針により債務残高は微減したものの、2007年に起こった世界金融危機や2008年のリーマン・ショックなどの影響から巨額の財政出動を余儀なくされ、債務残高は再び上昇に転じた。その後政権交代が発生するも、民主党が公約実現目的で財政的裏付けの乏しい中で子ども手当、高速道路無料化をはじめとする政策が行われたため依然として債務は膨れ続け、2009年には新規国債が52兆円と、60年ぶりに新規国債の発行額が税収以上となった。加えて2011年には東日本大震災が発生し、その復興のための復興債が発行され、この年は新規国債が過去最高の55.8兆円となった〔。 2014年10月16日、麻生太郎財務相は参院財政金融委員会で「今(2014年)の日本で、ハイパーインフレになるはずがない」「財政破綻は考えられない」と述べた〔ハイパーインフレになるはずがない=麻生財務相 Reuters 2014年10月16日〕。 2015年2月2日、NHKニュースにて「国の債務超過490兆余、10年間で倍に」と報道された。2015年2月16日、NHKの報道番組「ニュースウオッチ9」にて「『預金封鎖』もうひとつのねらい」が放送された〔高橋洋一の俗論を撃つ! 財政再建の妙薬は、増税ではなく「増収・インフレ税」 ダイヤモンド・オンライン 2015年2月19日〕。 == 債務の推移 == 債務残高の対GDP比は、日露戦争時で70%、1920年頃までで約20%、第二次世界大戦時の1944年で200%以上、1965年頃までで約5%付近となっている〔高橋洋一 『日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える』 光文社〈光文社新書〉、2010年、117頁。〕。 バブル崩壊後は、景気低迷による税収減や景気対策の減税、高齢社会による社会保障費の増大のため公債残高は爆発的に増加していった。2012年度末時点の残高は税収17年分の709兆円になる見込みである。日本国債を買い支えてきたのは主に日本国民による貯蓄であるが、日本の累積赤字国債は増え続けている〔日本の財政関係資料 財務省 2011年9月〕。日本の総債務は、中央政府の債務だけで、2000年9月末には511兆円余りであったが、2010年9月末時点では908兆円余りに増加している(財務省HPの統計による)。 2014年5月9日、財務省は、国債や借入金を合わせた「国の借金」が2013年度末で過去最大の1024兆9568億円となったと発表した〔「国の借金」、過去最大の1024兆円に 13年度末 日本経済新聞 2014年5月9日〕。「国の借金」のうち、国債は853兆7636億円、借入金は6454億円増の55兆5047億円、政府短期証券は4208億円増の115兆6884億円となった〔。 内閣府の『国民経済計算確報(2010年2月)』による政府部門のバランスシート(国・地方・社会保障基金の合計)では、金融資産(現金・有価証券など)が約504.2兆円、非金融資産(道路・土地など)が約491.2兆円、負債が約983.6兆円、正味資産が約11.8兆円となっている(2008年末時点)〔上念司 『「日銀貴族」が国を滅ぼす』 光文社〈光文社新書〉、2010年、126頁。〕。 2012年3月末現在の国のバランスシートでは、負債総額は1088兆円、資産総額は626兆円となっている〔【日本の解き方】「国の借金1千兆円」は不正確 特殊法人の民営化で資産処分せよ ZAKZAK 2013年8月18日〕〔高橋洋一「ニュースの深層」 消費税増税の前に政府が抱える巨額な金融資産と天下り先特殊法人を処分すべきだ 財務省にとって不都合な真実 現代ビジネス 2013年8月19日〕。 === ラインハート=ロゴフ仮説 === ハーバード大学の経済学者のカーメン・ラインハートとケネス・ロゴフは共著『国家は破綻する-金融危機の800年』(原題:This Time Is Different)で、国家債務の対GDP比率が少なくとも90%に達すれば、GDP伸び率が減速し始めるとの研究を発表している〔「国家は破綻する」著者ロゴフ氏らの公的債務研究に誤りの可能性=米研究者ら Reuters 2013年4月17日〕。この研究は、公的債務へ取り組みを正当化するため、アメリカや欧州連合(EU)などの当局者が頻繁に言及している〔。 一方でマサチューセッツ大学アマースト校の研究者トーマス・ハーンドン、マイケル・アッシュ、ロバート・ポリンらは論文の中で、ラインハートとロゴフが発表した公的債務に関する研究について、集計表におけるコーディングに誤りなどがあった可能性があるとの研究結果を発表している〔。 ノーベル経済学賞受賞者であるポール・クルーグマンは公的債務対GDP比が増えると経済成長が低下するのではなく、経済成長が低下したから公的債務対GDP比が増えたことや、イタリアと日本を除くとG7の国の公的債務残高対GDP比と成長率には相関関係がないと指摘している〔高橋洋一「ニュースの深層」 財政再建から「成長」に軸を移したG20とラインハート・ロゴフ論文の誤りについて 現代ビジネス 2013年4月22日〕。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「日本の財政問題」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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