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海軍機関科問題 : ウィキペディア日本語版
海軍機関科問題[かいぐんきかんかもんだい]

海軍機関科問題(かいぐんきかんかもんだい)とは、海軍士官制度において、兵科の士官と機関科の士官に設けられた区別に関する対立のことである。19世紀前半に蒸気推進軍艦の導入がされて以降、海軍には動力装置を操作する機関要員が必要になったが、その幹部である機関科士官は、制度上で戦闘要員である兵科士官と区別されることがあった。指揮権の有無や階級制度、給与、養成課程など様々な面において異なった取り扱いがされていたが、軍艦における動力装置の重要度の高まりや機関科士官らの抗議などにより制度変更が行われた。教育制度を中心とした兵科・機関科の制度統合のことを兵機一系化(へいきいっけいか)ともいう。
== イギリス海軍 ==

イギリス海軍では、1820年代に海軍への蒸気機関の導入が始まって以来、長期に渡って機関科士官の地位・給与・教育などの諸待遇を巡る機関科問題(Engineer Question)が続いた〔中村(1984)、98頁。〕。イギリス海軍では、1837年准士官級(Warrant officer)の機関科の幹部制度が設けられたが、士官級の機関科幹部が設けられたのは10年後の1847年になってからであった〔Potter (1960), p.120〕。士官制度になってからも、兵科士官(Executive officer)は軍人の地位にあるのに対し、機関科の「士官」は軍人ではなく文官である機関官とされた。教育面でも、王立海軍兵学校は兵科士官だけのための教育機関であるなど、様々な点で機関科士官の待遇は兵科士官よりも低いものとされた。これは、兵科士官はジェントルマンであるのに対し、機関科士官は平民であるという社会階級の違いを反映したためであった〔戸高(2009)、131頁。〕。イギリス海軍における機関科士官の劣悪な待遇は、蒸気推進軍艦の普及したクリミア戦争の頃になると、機関科士官の不足を招いた。そこで、1876年に汽走一等戦列艦マールバラ」(en)を練習艦として海軍独自の機関科士官養成が始まり、1879年には、プリマスキーハムen)に王立海軍機関学校en)の設立が決まった。
1897年、民間の有力な技術者モリソン(D・B・Morrison)が発表した論文をきっかけに、イギリス海軍での機関科士官の待遇問題は大きく取り上げられた。英国議会や新聞紙上で問題視された結果、海軍当局は改善を検討することを約束した。保守的な海軍関係者たちは兵機一系化に強く反対したが、改革派のジョン・アーバスノット・フィッシャー海軍本部に入ると、彼と海軍卿ウィリアム・パルマーen, 第2代セルボーン伯爵)により、セルボーン=フィッシャー・スキーム(仮訳::en:Selborne-Fisher scheme)と呼ばれる改革が進められることになった。まずは1903年3月に機関科士官の階級呼称が、上は「機関少将」から下は「機関少尉」までの兵科士官類似の呼称に改正された〔中村(1985)、360頁。〕。同年には機関科士官の教育課程にも戦術に関する内容を加えるなど教育の兵機一系化が進み、海軍兵学校出身で軍令権(艦艇・部隊の指揮権)を有する機関科士官も誕生した。フィッシャーは、完全な兵機一系化まで実現できずに一度は引退するが、第一次世界大戦勃発で第一海軍卿に返り咲いた。そして、1915年に機関科士官の制服に兵科士官同様のエグゼクティブ・カールen)を付けさせ、機関科士官全員に機関科部内に限っての軍令権を与えることに成功した〔中村(1985)、361-362頁。〕。
しかし、第一次世界大戦が終結すると、再び兵科と機関科の区別を明確化する揺り戻しがあった。1921年頃から機関科の改編が進められ、1925年末には兵科と機関科が再分離された。一方で、機関科士官の待遇改善も同時に進められた〔中村(1985)、366頁。〕。


抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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