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生成音韻論 : ウィキペディア日本語版
生成音韻論[せいせいおんいんろん]

生成音韻論(せいせいおんいんろん、generative phonology)とは、生成文法における音韻論である。

== 生成音韻論の特色 ==

音韻論自体の歴史もまだ百年にも満たないが、生成音韻論はそれに先行する構造主義音韻論(ヨーロッパ、アメリカいずれの構造主義についても)とは、その継承者でありながら、いくつかの点で大きく袂を分かつ。
# 母語話者に内在する知識についての理論であること
#
*生成文法における記述的妥当性に関わる。
# 普遍文法(初期状態)から個別文法(定常状態)への遷移、すなわち言語獲得を説明する理論であること
#
*生成文法における説明的妥当性に関わる。またこれは、第二次言語獲得がなぜ常に失敗するか、ということも説明する。例えば弁別素性は、初期状態においては普遍的素性集合として存在しているが、第一次言語獲得の過程でその真部分集合が活性化され、補集合は抑制される。これによって臨界期以降の言語学習においては抑制された弁別素性補集合にはアクセスすることができないため、すでに活性化された真部分集合弁別素性のみが活用可能となり、流用される。
# 表層(音声表示)から一定の手続きで「深い」表示を確定することができない、とすること
#
*生成音韻論以前に、エドワード・サピアによってファントム・フォニーム(擬音素、幻音素)の存在が明らかにされていた。これは、訓練された観察者であるサピアにとって観察されない分節素が言語コンサルタントの内観には存在する、というものであった。これは英語、フランス語などのよく知られた言語にも存在することがすぐにわかる。このような分節素の存在は、表層の観察とそこからの帰納だけでは知り得ない構造の存在を強く示すものである。ノーム・チョムスキーはwriter-riderという対に関する議論で、''r''弾音化によって環境が失われているはずの有声阻害音の前の母音長化が適用の出力として存在することから、表層にいたる前の表示で必要な環境が存在している、ということを説得力をもって示した。
# ある表示から別の表示へ、規則によって写像すると考えること
#
*生成音韻論は、普遍的素性集合としてどのような弁別素性があるかを特定し、その素性が配列されて表示を構成する際の制限を明らかにする。同時に、ある表示から別の表示へ写像する規則も特定する。表示と規則の関係は緊密で、ある規則が言及するような表示の構造は必要であるが、そうでない構造は存在を主張する根拠を欠く。また、規則の指定は任意であってはならず、汎言語的視野からの自然さや形式的制限などの観点からあってしかるべきものでなければならない。
# 音韻論に内在する有意義な単一の表示として「音素表示」は存在しない、とすること
#
*初期生成音韻論からとられている立場である。
# 弁別素性理論の発展
#
*分節素をより基本的な特徴で記述しようという考えはすでにIPAの指定の仕方の中に見られる。ロマーン・ヤーコブソンはそこから大きく歩みを進め、最小限の素性の集合で世界中の言語音を記述でき、さらに自然類を特徴付けることができるような枠組みを作った。ヤコブソンの弁別素性理論は調音音声学音響音声学の特徴を利用して素性の数を可能な限り少なくし、それを用いて可能な限り網羅的に言語音を記述できるようにデザインされたものであった。チョムスキーとモリス・ハレは''The Sound Patterns of English''(''SPE'')においてヤコブソンの弁別素性理論を発展させ、音響音声学の特徴をなくしていき、能動的調音器官(=調音体)である舌の調音点に基づいた素性を多く設定することで母音と子音を同じ素性体系で記述する、などを行った。
# 正書法の復権
#
*正書法と発音のずれから、正書法を変えるべきだ、という議論がいつの時代にも起こる。しかし生成音韻論の研究は、正書法が基底表示と極めて深い関係にあることを徐々に明らかにしていった。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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