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『緑色のストッキング』(みどりいろのストッキング)は、安部公房の書き下ろし戯曲。14景から成る。緑色のストッキングを偏愛する中年男が、その下着フェティシズムを妻子に知られ自殺未遂し、食糧危機研究の医者の実験台で「草食人間」となる物語。男の妻と医者との対立、彼らと草食人間とのシュールな絡み合いが交差するブラックユーモアな展開の中、平和・自由のイメージの「緑色」というシンボルが一人の人間を疎外し飲み込んでいく様を描き、滑稽で異端な草食人間が或る瞬間から、非人間化した者たちの中で、逆に詩的になり人間性を回復してくる姿を浮き彫りにしてゆく〔安部公房「周辺飛行――第94回新潮社文化講演会」(新宿・紀伊國屋ホール 1974年10月1日)〕〔安部公房「ひと・ぴいぷる――談話記事」(夕刊フジ 1974年11月30日号に掲載)〕。 1974年(昭和49年)10月15日に新潮社より単行本刊行された。同年11月9日に田中邦衛主演により紀伊國屋ホールで初演され、翌年1975年1月23日に第26回(1974年度)読売文学賞戯曲賞を受賞した〔「作品ノート25」(『安部公房全集 25 1974.03-1977.11』)(新潮社、1999年)〕。翻訳版はドナルド・キーン訳(英題:Green Stockings)で行われている。 == 作品成立・主題 == 『緑色のストッキング』は、1955年(昭和30年)に発表された短編小説『盲腸』をテレビドラマ化した『羊腸人類』を、さらに戯曲化したものである〔「作品ノート25」(『安部公房全集 25 1974.03-1977.11』)(新潮社、1999年)〕。また安部は、タイトルを「緑色のストッキング」か、「夢は荒野を……」にするか迷ったという〔安部公房「ここのところ――周辺飛行35」(波 1974年9月号に掲載)〕。 原形の小説『盲腸』を書いた頃の発想について安部公房は、実際自身が戦後の飢餓状態だった時の経験である、戦後満州からの「引揚者」だったことに言及しながら次のように語っている〔。 『緑色のストッキング』について安部は、世間で話題の「食糧問題」とテーマが重なり合ってはいるが、「これはズーッと前からあたためてきたもの」だと述べ〔安部公房「人間関係を裏返しに」(新日本 1974年11月号に掲載)〕、内容は、「ブラックユーモアなどの滑稽でグロテスクなもの」を主体にした、「人間関係を裏返しに、内臓を切り開くような構成」だと解説している〔。そして、「草を食ってる人間」が、滑稽なだけでなく、或る瞬間から「ポエジーというか、非人間化した人間の中で、かえって人間性を回復してくる」とし〔、「存在や形式が異端視されると、その人間が可哀想なんだが、実は異端視している方が……。他者に対する不寛容、偏見につながってくる」と説明している〔。 また安部は、草食人間が2時間おきに腹から物凄い音を鳴らすことへの我々の嫌悪感や偏見を引き出すため、芝居で実際に不快な音響を効果音に使用したとし、そこには、「一人の人間が、他者に対して仲間として正統なものとして受け入れるか、あるいは異端として排斥するか」というテーマが基本的にあり、それゆえに、実際に「ガスが出る音」が、「非常に重要なモーメント」になるとしている〔。そして男のもう一つの疎外要素の下着泥棒について以下のように触れつつ、初めは意識していなかった〈ストッキング〉と〈草を食う〉というバラバラのものが、「見えない設計図」があったかのように書いていくうちに繋がったとテーマについて語っている〔。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「緑色のストッキング」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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