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膜電位感受性色素 : ウィキペディア日本語版
膜電位感受性色素
膜電位感受性色素 (voltage-sensitive dye) 〔voltage-sensitive dyeの日本語訳としては、膜電位プローブや電位感受性色素をはじめとして様々な用語が用いられてきたが、生体膜の膜電位をモニターするための色素であることを強調するための「膜」という文字がつけられた「膜電位感受性色素」が当初より用いられた正式な用語である。〕
は、イェール大学の Larry Cohen教授のグループ(Larry Cohen (Yale Univ, USA), Brian Salzberg (Univ Penn, USA), Amiram Grinvald (Weizmann Inst, Israel), Bill Ross (NY Med Coll, USA), Kohtaro Kamino (Tokyo Med Dent Univ, Japan))によって開発された、光学的に膜電位変化を計測するための色素である。この色素を用いることによって、生体標本上の多数の領域から膜電位変化を計測し、画像化することが可能である。


日本においては、開発者のひとりである東京医科歯科大学の神野耕太郎名誉教授が初めて導入し、自前でフォトダイオードアレイを用いた測定機器を開発・改良して測定を開始したことに始まる。当初は、心臓神経系の機能発生・機能形成の研究に応用され、その後、測定システムが市販されたことにより、一般に用いられるようになっている。開発初期の歴史や測定システムの原理に関しては、以下の文献に詳しく解説されている。
# 神野耕太郎「ニューロン活動の光学的測定の背景と展開」神経科学レビュー 5: 155-187, 1991.
# Kamino, K. (2015) Personal recollections: Regarding the pioneer days of optical recording of membrane potential using voltage-sensitive dyes. Neurophotonics 2, 021002.


また、以下の英語本に歴史から最新の研究まで詳しく紹介されている。
# Membrane Potential Imaging in the Nervous System and Heart. Eds. Canepari, M., Zecevic, D and Bernus, O. Springer-Verlag, New York, 2015.

==歴史==

===B. C. 的背景===
生物学医学における光学的観察あるいは光学的測定の歴史は古いが、神経系の研究へもかなり早くから導入されている。

・1848年にはすでに F. Ehrenbergが神経線維に2つの異なった屈折率があることを見いだしたことを Francis O. Schmitt (1939) が Physiological Reviews誌に発表した総説に引用している〔Schmitt FO : The ultrastructure of protoplasmic constituents. Physiol Rev 19 : 270-302, 1939〕。

・さらに、1865年には、Klebsが神経線維のミエリン鞘の偏光性についての論文を発表している。

・この線に沿った研究は、やや間を置いて、1920〜30年代に F. O. Schmittらによってとりあげられた (Schmitt, 1939〔Schmitt FO : The ultrastructure of protoplasmic constituents. Physiol Rev 19 : 270-302, 1939〕)。これらの研究は、複屈折や偏光性を測定することによって、神経線維やミエリン鞘の微細構造を調べようとしたものである (Schmitt, 1939〔Schmitt FO : The ultrastructure of protoplasmic constituents. Physiol Rev 19 : 270-302, 1939〕 ; Schmitt and Bear, 1939〔Schmitt FO, Bear RS : The ultrastructure of the nerve axon sheath. Biol Rev 14 : 27-50, 1939〕)。しかしながら、1940年代の後半になると、この方向での研究は途切れてしまっている。これは、電子顕微鏡の開発によって微細構造についての研究法がそちらへ移ったためと思われる。



一方、19世紀の終わりごろには、神経活動と関係づけたもう1つの方向での光学的研究がみられる。

・Hodge (1892)〔 Hodge CF : A microscopical study of changes due to functional activity in nerve cells. J Morphol 7 : 95-164, 1892〕は、スズメハトツバメの生体染色を施した脊髄神経節を連続的に電気刺激して、刺激前後の神経細胞細胞核液胞の形や、さらにそれらの色素 (osmic acid) による染まり具合を光学顕微鏡で詳細に観察し比較している。

・同じ時期に、Mann (1894)〔 Mann G : Histological changes induces in sympathetic, motor, and sensory nerve cells by functional activity. J Anat Physiol 29 : 100-108, 1894〕 もまた同様の実験をウサギイヌ交感神経節を用いて行い、神経活動に伴って細胞や核の大きさが増大すること、またそれらと Methyl blue や Eosinなどとの親和性が変化することを観察している。これらの研究で注目すべきことは、実験を行うにあたって、彼らが、ニューロン活動の根底にあるエネルギー消費が、何らかの形で神経細胞の形態あるいは神経組織の性状の変化に反映されるはずであるという考えを念頭においていることである。

・さらに生体染色法を用いて、神経活動に伴う神経組織の色素による染まり具合を観察している(Lillie, 1969)〔Lillie RD : Uses and standardization of biological stains. In, H. J. Conn’s Biological Stains. pp1-14, The Williams & Wilkins Comp, Baltimore, 1969〕。



その後、今世紀に入って、神経活動とより密接に関連づけた光学的測定がなされている。

・その先駆的役割を果たしたのは、F. O. Schmittと O. H. Schmitt (1940)〔Schmitt FO, Schmitt OH : Partial excitation and variable conduction in the squid giant axon. J Physiol (London) 98 : 26-46, 1940〕 である。彼らは、偏光顕微鏡光電子増倍管を取り付けて、ヤリイカ (''Loligo pealei'') の巨大神経線維の電気的興奮に伴う複屈折の変化の測定を初めて試みたが、光学的変化を記録することはできなかった。これは、彼らが用いた当時の装置では感度が不足していたことに起因するもので、彼らも論文の末尾で、この失敗は用いられた測定装値の感度が充分でなかったためであり、もっと性能のよい装置を用いれば記録できるはずであると言及している。

・また、もしカニの歩行脚神経を用いておれば、彼らの感度でも光学的変化は記録できたという可能性については、L. B. Cohen (1973) 〔Cohen LB : Changes in neuron structure during action potential propagation and synaptic transmission. Physiol Rev 53 : 373-418, 1973〕によって指摘されている。



このSchmittらの研究に続いて神経活動の光学的研究は1950年前後に活発に行われている。その中心となったのは、D. K. Hill, R. D. Keynes, J. M. Tobiasである。

・まず、HillとKeynes (1949) 〔Hill DK, Keynes RD : Opacity changes in stimulated nerve. J Physiol (London) 108 : 278-281, 1949〕は、不成功に終わったSchmittらの試みをうける形で、カニ (shore crab : ''Carcinus maenus'') の歩行脚神経幹を電気刺激して引き起こされる神経線維の不透明度 (opacity) の変化の測定を行った。彼らの実験では、タングステンランプから神経線維を垂直方向に白色光で照射し、スリットを通して、神経線維からの透過光 (transmitted light) をフォトセルで直接detectしている。これが、現在われわれが用いている光学測定の原型といえる。彼らはこの実験で、1秒当たり50回の電気刺激を5秒から10秒間続け、それに伴う神経線維のopacityの増大を記録することに成功した。神経刺激に伴う光学的変化の記録としては、これがおそらく最初のものである。

・さらに、Hill (1950)〔Hill DK : The effect of simulation on the opacity of a crustacean nerve trunk and its relation to fibre diameter. J Physiol (London) 111 : 283-303, 1950〕 は測定装置に改良を加え、カニ (''Maia squinado'') の歩行脚神経線維を電気刺激 (50~100/secで約5~10秒) することによって、透過光強度(光散乱:light scattering)が増大することを見いだした。彼は、細胞外液浸透圧を変えたときの神経線維の透過光の変化も調べ、その結果と照らし合わせて、測定された光散乱の変化は神経線維の直径が大きくなったことによることを示唆した。

・Hill (1950)〔Hill DK : The volume change resulting from stimulation of a giant nerve fibre. J Physiol (London) 111 : 304-327, 1950 〕は同様の実験を、イカ (''Sepia officialis'') の単一巨大神経線維でも行い、この場合も、電気刺激によって光散乱が増加することを見いだし、これも神経線維の直径が大きくなったこと(容積の増大)に起因することを示唆した。そして、直径220μmの神経線維を連続して1万回の電気刺激をおこなったとき引き起こされる直径の変化は、約 0.1 であると見積もっている。

・この結果は、その後、Cohenら (1971) 〔Cohen LB, Hille B, Keynes RD, et al : Analysis of the potential-dependent changes in optical retardation in the squid giant axon. J Physiol (London) 218 : 205-237, 1971〕の実験によっても支持され、さらに、Terakawa (1988) 〔Terakawa S : Potential-dependent variations of the intracellular pressure in intracellular perfused squid giant axon. J Physiol (London) 369 : 229-248, 1988 〕 の、ひと工夫された方法での追試でも確かめられている。

・J. M. Tobiasら (Tobias, 1952〔Tobias JM : Some optically detectable consequences of activity in nerve. Cold Spring Harbor Symp Qunt Biol 17 : 15-24, 1952〕 ; Bryant and Tobias, 1952〔Bryant SH, Tobias JM : Changes in light scattering accompanying activity in nerve. J Cell Comp Physiol 40 : 199-219, 1952〕 ; Tobias and Nelson, 1959〔Tobias JM, Nelson PG : Structure and function in nerve. In, A Symposium on Molecular Biology. pp248-265, The University of Chicago press, 1959〕) も神経活動に伴う光散乱変化を測定している。Tobias (1952)〔Tobias JM : Some optically detectable consequences of activity in nerve. Cold Spring Harbor Symp Qunt Biol 17 : 15-24, 1952〕 は刺激電極の陽極側では光散乱強度は小さくなり、陰極側では大きくなることを示し、それは陽極側での神経線維の収縮、陰極側での膨潤に対応することを示している。なお、この時期における光学的測定についてはTobias (1959)〔Tobias JM : Biophysical aspects of conduction and transmission in the nervous system. Annu Rev Physiol 21 : 299-324, 1959〕 による総括的なレビューにまとめられている。



ところが、1950年代の中ごろから1960年代の終わりごろまで、このような光学的測定はほとんど中断された状態になっている。これは、LingとGerard (1949) 〔Ling G, Gerard RW : The normal membrane potential of frog sartorius fibers. J Cell Comp Physiol 34 : 383-396, 1949〕に始まる微小電極法の導入により、これを用いた電気生理学的研究が神経生理学の中心となったためであろう。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
ウィキペディアで「膜電位感受性色素」の詳細全文を読む



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