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高血圧治療薬(こうけつあつちりょうやく、)は、医薬品の分類の一つであり、何らかの原因で血圧が正常範囲から持続的に逸脱している場合(いわゆる高血圧)、具体的には収縮期血圧(最高)が140mmHg以上あるいは拡張期血圧(最低)が90mmHg以上の場合に、その血圧を低下させる目的で用いられる治療薬であるが、この基準値は患者の年齢や糖尿病などの基礎疾患の有無により異なる。また、家庭血圧と診療室血圧の値がそれぞれ異なる値を示すことが東北大学の今井らによって行われた大迫研究により明らかにされており、ガイドラインにおいても考慮されている。日本の高血圧人口は4000万人に及ぶとも言われ、もはや国民的な疾患であると言える。高血圧は生活習慣病の一つに位置づけられ、自覚症状はほとんど認められないものの、血管内皮の障害を起因として動脈硬化症を発症する原因となり、さらにそこから虚血性心疾患や脳卒中など種々の合併症が引き起こされることから問題となる。 高血圧の最終的な治療目的は脳卒中や心不全などの二次的疾患を予防し、生命予後を改善することにある。高血圧の発症には食生活や喫煙などの生活習慣が大きく関与することから、基本的にはこれらを改善することによる治療(非薬物療法)が試みられるが、目標値が達成不可能である場合には薬物治療が行われることになる。血圧のコントロールは自律神経系やレニン-アンジオテンシン系(RA系)をはじめとした液性因子などによって行われており、現在発売されている降圧薬は主にこれらの機構をターゲットとしている。 == 治療薬選択の大まかな考え方 == ;アドヒアランス向上のため原則としては1日1回投与のものを選ぶ。 ;降圧薬の投与量は低用量から開始する。 :低用量から高用量への増加よりもシナジーを期待して併用療法を行った方が効果が高いと考えられている。 ;II度以上(160/100mmHg以上)の高血圧では最初から併用療法を考慮する。 :併用法としてはRA系抑制薬とCa拮抗薬、RA系抑制薬と利尿薬、Ca拮抗薬と利尿薬、βブロッカーとCa拮抗薬などがあげられる。 ;最初に投与した降圧薬で降圧効果が得られなければ作用機序の異なる降圧薬に変更する。 高血圧の薬物治療は通常、単剤あるいは低用量の2剤から開始され、降圧作用が不十分な場合には用量の増大か多剤への変更、異なる作用機序を持つ降圧薬との併用療法などが行われる。 また、一概に高血圧治療薬といっても多くの種類が存在し、これらの作用機序・薬効・薬価は様々である。高血圧の初期薬物治療においてどのような薬物を用いるかは大規模な臨床試験の結果やガイドラインに沿って行われる。高血圧の診療ガイドラインはWHO/ISH(国際高血圧学会)によるものと米国のJNC7が国際的に主流であり、JNC7ではチアジド系利尿薬が他のグループと比較して安価で大きな治療効果が得られることから、その使用が推奨されているが〔Chobanian AV et al.(2003)"The Seventh Report of the Joint National Committee on Prevention, Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure: the JNC 7 report."'' JAMA.'' 289,2560-72. PMID 12748199〕〔ALLHAT Officers and Coordinators for the ALLHAT Collaborative Research Group(2002)"Major outcomes in high-risk hypertensive patients randomized to angiotensin-converting enzyme inhibitor or calcium channel blocker vs diuretic: The Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial (ALLHAT)."'' JAMA.'' 288,2981-97. PMID 12479763〕、治療薬は個々の患者の病歴や合併症の有無などを考慮した上で選択されるべきである。日本においても日本高血圧学会による高血圧治療ガイドラインが2004年に作成されており(JSH2004)、2009年1月には最新版(JSH2009)が発行された。国際ガイドラインは欧米での臨床試験をもとに作成されているため、日本人の高血圧治療に当てはめるには不向きな点もあるが、新ガイドラインであるJSH2009ではCASE-J試験やJIKEI-Heart試験、JATOS試験等の国内の臨床試験のデータがエビデンスとして盛り込まれた。 なお、JSH2004からJSH2009への変更点は以下のような点である。(1)α遮断薬の主要降圧薬からの除外。(2)血圧値に加えて心血管障害、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病(CKD)などの危険因子を考慮して3群にリスク層別化を行い、治療方針を決定。(3)降圧目標の設定。 また、高血圧の患者では薬物を長期に渡って服用することになり、降圧薬の併用に加えて合併症に対する治療薬も数多く処方され結果として10種類を超えるような薬剤を服用している場合も少なくない。ADVANCE試験により合剤の有用性が示され、日本においてもARBと利尿薬の合剤が認可されている。このような複雑な処方を受けている患者に対して合剤を用い、少しでも薬の種類を少なくすることがアドヒアランスの改善に結びつくと考えられている〔Bangalore S, Kamalakkannan G, Parkar S and Messerli FH.(2007)"Fixed-dose combinations improve medication compliance: a meta-analysis."''Am.J.Med.'' 120, 713-9. PMID 17679131〕。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「高血圧治療薬」の詳細全文を読む 英語版ウィキペディアに対照対訳語「 Antihypertensive drug 」があります。 スポンサード リンク
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