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行ベクトル : ウィキペディア日本語版
行列[ぎょうれつ]

数学線型代数学周辺分野における行列(ぎょうれつ、)は、数や記号や式などを(ぎょう、)と(れつ、)に沿って矩形状に配列したものである。とは数の横の並びを表わし、は数の縦の並びを表わす。並べられた個々のものはその行列の要素(ようそ、)または成分(せいぶん、)と呼ぶ。行の数が 個で列の数が 個の行列は 行 列の行列と呼ばれ、しばしば 行列と表記される。
行の数と列の数が同じ行列は加法減法が成分ごとの計算によって与えられる。行列の乗法の計算はもっと複雑で、2 つの行列がかけ合わせられるためには、積の左因子の列の数と右因子の行の数が一致していなければならない。
行列の応用として顕著なものは一次変換の表現である。一次変換は のような一次関数の一般化で、例えば三次元空間におけるベクトルの回転などは一次変換であり、 が回転行列で が空間の点の位置を表す列ベクトル(1 列しかない行列)のとき、積 は回転後の点の位置を表す列ベクトルになる。また 2 つの行列の積は、2 つの一次変換の合成を表現するものとなる。行列の別な応用としては、連立一次方程式の解法におけるものである。行列が正方行列であるならば、そのいくつかの性質は、行列式を計算することによって演繹することができる。例えば、正方行列が正則であるための必要十分条件は、その行列式の値が非零となることである。固有値や固有ベクトルは一次変換の幾何学に対する洞察を与える。行列の応用は科学的な分野の大半に及び、特に物理学において行列は、電気回路、光学、量子力学などの研究に利用される。コンピュータ・グラフィックスでは三次元画像の二次元スクリーンへの投影や realistic-seeming motion を作るのに行列が用いられる。は、古典的な解析学における微分指数関数の概念を高次元へ一般化するものである。
主要な数値解析の分野は、行列計算の効果的なアルゴリズムの開発を扱っており、主題は何百年にもわたって今日では研究領域も広がっている。行列の分解は、理論的にも実用的にも計算を単純化するもので、アルゴリズムは正方行列対角行列などといった行列の特定の構造に合わせて仕立てられており、有限要素法やそのほかの計が効率的に処理される。惑星運動論や原子論では無限次行列が現れる。関数のテイラー級数に対して作用する微分の表現行列は、無限次行列の簡単な例である。
== 歴史 ==
線型方程式の解法における応用に関して、行列は長い歴史を持つ。紀元前300年から紀元200年の間に書かれた中国の書物『九章算術』は連立方程式の解法に行列を用いた最初の例であるといわれ〔 cited by 〕、それには行列式の概念が、日本のが1683年に、ドイツのライプニッツが1693年にそれぞれ独立に著すよりも実に1000年以上も前に扱われていた。クラメル有名な公式を生み出すのは1750年のことである。
行列論の初期においては、行列よりも行列式のほうに非常に重きが置かれており、行列式から離れて現代的な行列の概念と同種のものが浮き彫りにされるのは1858年、ケイリーの歴史的論文 ''Memoir on the theory of matrices''(「行列論回想」)においてである。用語 "matrix"(ラテン語で「生み出すもの」の意味の語 "womb" に由来)はシルベスターが導入した。シルベスターは行列を、(今日小行列式と呼ばれる)もとの行列から一部の行や列を取り除いて得られる小行列の行列式として、たくさんの行列式を生じるものとして理解していた〔OEDによれば、数学用語としての "matrix" の最初の用例は J. J. Sylvester in London, Edinb. & Dublin Philos. Mag. 37 (1850), p. 369: "We ‥commence‥ with an oblong arrangement of terms consisting, suppose, of m lines and n columns. This will not in itself represent a determinant, but is, as it were, a Matrix out of which we may form various systems of determinants by fixing upon a number p, and selecting at will p lines and p columns, the squares corresponding to which may be termed determinants of the pth order.〕。1851年の論文でシルベスターは
と説明している〔The Collected Mathematical Papers of James Joseph Sylvester: 1837–1853, Paper 37 , p. 247〕。
行列式の研究はいくつかの流れから生じてきたものである。数論的な問題はガウスが二次形式(つまり、 x^2 + xy - 2y^2 のような数式)の係数と三次元の線型写像を行列に結び付けたことに始まり、アイゼンシュタインがこれらの概念をさらに進めて、現代的な用語でいえば行列の積非可換であることなどを指摘した。コーシーは行列 A=(a_) の行列式として、多項式
:a_1 a_2 \cdots a_n \prod_ (a_j - a_i)
(ここで ∏ は条件を満たす項の総乗を表す)の冪 を で置き換えたものという定義を採用し、それを用いて行列式についての一般的な主張を証明した最初の人である。コーシーは1829年に、対象行列の固有値が全て実数であることも示している。ヤコビは、幾何学的変換の局所的あるいは無限小のレベルでの挙動を記述することができる関数行列式(後にシルベスターが「ヤコビ行列式」と呼んだ)の研究を行った。クロネッカーの ''Vorlesungen über die Theorie der Determinanten'' とワイエルシュトラスの ''Zur Determinantentheorie'' はともに1903年に出版された。前者は、それまでのコーシーの用いた公式のような具体的な手法とは反対に、行列式を公理的に扱ったものである。これを以って、行列式の概念がきっちりと確立されたと見なされている。
多くの定理は、初めて確立されたときには小さいサイズの行列に限った主張として示された。例えばケーリー=ハミルトンの定理は、ケイリーが先述の回想録において 2 × 2 行列に対して示し、ハミルトンが 4 × 4 行列に対して証明して、その後の1898年にフロベニウス双線型形式についての研究の過程で任意次元に拡張した。また、19世紀の終わりに、(ガウスの消去法として今日知られるものを特別の場合として含む)ガウス–ジョルダン消去法をが確立し、20世紀の初頭には行列は線型代数学の中心的役割を果たすようになった。前世紀のの分類にも行列の利用が部分的に貢献した。
ハイゼンベルクボルンジョルダンらによる行列力学の創始は、行または列の数が無限であるような行列の研究へ繋がるものであった。後にフォン・ノイマンは、(大体無限次元のユークリッド空間にあたる)ヒルベルト空間上の線型作用素などの関数解析学的な概念をさらに推し進めることにより、量子力学の数学的基礎を提示した。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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英語版ウィキペディアに対照対訳語「 Matrix (mathematics) 」があります。



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