|
語りもの(かたりもの)は日本中世にはじまった口承文芸・音楽もしくは芸能のジャンルまたは演目。 伝統的な日本音楽(邦楽)において、声楽はその大部分を占めているが〔薦田(1990)p.116〕、日本音楽における声楽は、「歌いもの」と「語りもの」に大きく分けられる〔。「歌いもの」は、旋律やリズムなど、その音楽的要素が重視される楽曲であるのに対し、「語りもの」は詞章が何らかの物語性をもつ楽曲であり、語られる内容表現に重点が置かれる音楽である〔。 == 概略 == 古代にあっては音声による言語的伝達の営みを意味していた「語り」は、鎌倉時代以降は節回しをもった声と楽器が一体化したものをも含むようになった。これが「語りもの」である〔「語る」ことは、事件や事象を聴く人にわかるように伝達することを目的とし、そこに説得力が必要であるのに対し、「歌う」ことは感情を表現することを主目的としている。また、「話す」は日常の言語表現の行為であるのに対し、「語る」はまとまった事柄や物語を改めて伝える行為であり、さらに、「読む」が文字を媒介とし、聞き手の存在を前提にしないのに対し、「語る」は必ずしも文字を前提とせず、逆に、聴衆を前提とする点が異なる。吉川(1990)p.38-40〕。 平安時代にはじまった軍記物語の多くは後世「語りもの」として庶民のあいだに愛好された。なかでも鎌倉時代に成立した『平家物語』のテキストは、琵琶法師の平曲にあわせて語りの台本としてつくられたものと読むためにつくられたものがあり、前者を「語り本」「語りもの」系と称するのに対し、後者は「読み本」「読みもの」系と称した〔山本(1989)p.162〕。 「語りもの」の語は多義的であり、「平曲は語りものである」という場合の「語りもの」は邦楽における一ジャンルのことである。薩摩琵琶や筑前琵琶、浪花節などは、いずれも「語りもの」のジャンルに属する。それに対し、「今回の平曲の語りものは、『那須与一』と『横笛』である」という場合の「語りもの」は演目のことであり、「祇園精舎」「茨木」「石堂丸」などはいずれも語りものの演目である〔吉川(1990)p.37〕。 また、別の面からは、文芸の分野において、内容的に叙事詩のことを「語りもの」と称する場合があり、その意味では『平家物語』のテキスト(語り本テキスト)を黙読しても「語りもの」を読んでいることになる。この意味の場合の「語りもの」では、とくに和漢混淆文で書かれた戦記文学を多く扱った。そのいっぽうで、音楽上の概念としては、演奏様式上、「歌いもの」に対する語として用いられる。この場合、黙読する対象たとえば台本を「語りもの」と言わないのみならず、たとえ内容的に叙事詩であっても「歌われた叙事詩」を「語りもの」とは決していわない。あくまでも、口で語られる音楽こそ「語りもの」と定義される〔吉川(1990)p.38〕。なお、後者の場合、紛らわしさを回避するため「語りもの音楽」と表記することも多い。 琵琶法師は、平安時代のころから琵琶をかきならしながら叙事詩を語って活躍していたが、楽器の伴奏にあわせて物語に節(メロディ)をつけて語る「語りもの」は、鎌倉仏教の形成とともに鎌倉文化を特色づける新しい傾向である。 語りの文芸には平曲があるほか、室町時代には謡曲、浄瑠璃が成立し、近世には義太夫節、常磐津節、清元節、浪曲などが生まれた。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「語りもの」の詳細全文を読む スポンサード リンク
|