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道行故郷の春雨 : ウィキペディア日本語版
恋飛脚大和往来[こいのたよりやまとおうらい]
恋飛脚大和往来』(こいのたよりやまとおうらい)とは、歌舞伎の演目のひとつ。人形浄瑠璃けいせい恋飛脚』を歌舞伎に脚色したもの。通称『梅川忠兵衛』(うめがわちゅうべえ)。
== あらすじ ==
大和国新口村の百姓孫右衛門のせがれ忠兵衛は、大坂の飛脚屋亀屋に養子に出され、その家の一人娘おすわと縁組して亀屋を継ぐことになっていた。しかし先代の甥に当たる利兵衛は丹波屋八右衛門と共謀し、忠兵衛に替って自分が亀屋の跡取りになろうとし、またいとこに当たるおすわにも横恋慕している。おすわは忠兵衛のことを憎からず思っていたが、忠兵衛は新町の遊女梅川と互いに深く馴染み、遊郭に通いつめていた…。
(この芝居は古くは序幕として「生玉神社の場」という場面から演じられていたが、現行の舞台ではその上演は絶えており、台本も廃滅して伝わらない。ただし内容としてはいくつかの点で相違はあるものの、おおむね『けいせい恋飛脚』の上之巻「生玉の段」と同じものだったと見られる〈後述〉。『けいせい恋飛脚』「生玉の段」のあらすじを参照)
亀屋の場)飛脚屋の亀屋で誰も居ない店先に利兵衛がそっと中へ入り、神棚にある対の神酒徳利の片方を取り、医者の道哲に作らせた毒薬を混ぜ、ふたたび神棚に戻す。これで忠兵衛を毒殺するつもりである。利兵衛は立ち去る。だがこの様子を、忠兵衛は奥からこっそり見ていた。忠兵衛は神酒徳利の左右を取替え、これも再び奥へと入る。
新口村の忠三郎が医者道哲を伴って訪れ、亀屋に泊まることになる。そのあと、養母おさのとおすわの前に利兵衛が現われ、忠兵衛が近頃商売もそっちのけで新町の遊郭に通いつめていることを当てこすり、養子の忠兵衛は早く生れ在所に返し、自分を亀屋の跡継ぎにするようそれとなく言うが、おさのは取り合わず、奥へと入ってしまった。続いて奥へと入ろうとしたおすわを利兵衛はとらえ、自分と夫婦になれと口説き、嫌がるおすわを追回す。そこへ忠兵衛が出てきて利兵衛を投げ飛ばすところに、丹波屋八右衛門が亀屋に来た。
忠兵衛は梅川身請けの為に、八右衛門宛ての為替五十をその手付けに使ってしまった。昨日それを八右衛門に追及され、なんとか待ってもらえることに収まったはずが、その五十両を今返せと尋ねてきたのである。進退に窮する忠兵衛。するとそれまでの様子を聞いていたおさのが奥より出て八右衛門に申し開きをし、自分の蓄えから五十両を出そうとする。ところがその五十両をしまっていたはずの箪笥の引出しを開けると金がない。その五十両とは利兵衛がひそかに盗み取り、医者の道哲に毒薬の代金として渡していたのである。それを知った上で八右衛門は、忠兵衛がその金を盗んだのだろうと言いがかりをつけるが、忠兵衛は利兵衛こそ金を盗んだ張本人と主張する。
すると八右衛門は、門口に貼ってあった熊野牛王の護符をはがし、それを燃やして二つのかわらけに分けて入れ、さらに神棚より神酒徳利の両方をとり、その二つのかわらけに注いだ。盗んでいながら盗んでないと偽りをいう者がこれを飲めば、たちまち熊野の神の罰が当たって血を吐き死ぬであろう。八右衛門は、忠兵衛と利兵衛にそれぞれかわらけの神酒を飲むよう勧める。じつは、八右衛門は利兵衛がこの神酒徳利の一方に毒を仕込んだことを知っているので、利兵衛には毒の無いほうの徳利から神酒を注ぎ、忠兵衛には毒の入った徳利の中身を飲ませようとしていたのである。忠兵衛に注いだ神酒に毒が入っているはずであった。「イヤモウてんごうらしい事じゃが、面ばれにのめなら呑もうわい」と、忠兵衛は神酒をぐっと飲みほす。「しめた」と内心悦ぶ八右衛門と利兵衛。続いて利兵衛も神酒を飲み干した。
ところが、異変は利兵衛の身に現われた。利兵衛は忠兵衛に向いなおもまくし立てるが、そうするうち次第に体が熱くなってきた…これはどうしたことかと大汗も出て体もこわばってくる。忠兵衛は利兵衛が神酒徳利に毒を入れたあと、左右の位置を変えて置いた。すなわちそれと知らず毒を飲んだのは利兵衛のほうだったのである。しくじったと気付いた八右衛門は逃げ出そうとするが、忠兵衛に止められる。しかし五十両の金は戻らず、おさのとおすわが案じていると、「イヤその金は私がおかえし申しましょう」と奥から道哲が出て、利兵衛から受け取った五十両をおさのに渡した。少し容態のおさまった利兵衛が道哲の顔を見て「わりゃ昨日の医者め、どうしてここへ」とびっくりする。
道哲は皆の前で事情を話した。自分はもと遊女梅川の父親に仕えた者であり、その梅川に金のいる事が起きたと聞いて京より下ってきた。その途中で利兵衛と出会い、利兵衛は自分が医者だと聞いて毒薬の調合を頼んだ。だが利兵衛に渡したのは長命丸という薬であり、利兵衛から受け取った金も亀屋に返すつもりであったと。おさのは八右衛門に五十両を渡して受取りを求める。八右衛門は受取りを書いて渡し、皆に向って散々憎まれ口を叩いて出て行くと、道哲もおさのたちから感謝されつつも暇乞いをして去っていった。
夜も更けた。利兵衛はまだのぼせて倒れているが、そこへ白い浴衣を着た風呂上りの忠三郎がでてくる。だが気が付いて忠三郎の顔を見た利兵衛はまたもびっくりする。昨日生玉で無理やり毒を飲ませて死なせたはずの道哲の下部ではないか。利兵衛はのぼせて道哲の話を聞いていなかった。するとこの様子に忠三郎も調子に乗って、幽霊となり利兵衛たちに恨みごとを言いにやってきたとさんざん脅かすので、怯えた利兵衛は忠三郎に追いかけられながら逃げてゆく。
静まり返った亀屋の内で、おすわがふるえながら、戸棚から三百両の金をぬすみ出していたが、暗い中つまづいて転んでしまう。この物音におさのと忠兵衛が出てきて、おさのが「ここなぬす人めが」と取り押さえると娘のおすわなのでびっくりする。ふと見るとおすわがなにか書き付けたものを持っているので取り上げてみると、それは忠兵衛のほかに自分には好きな男がいて、その男のために三百両を持って駆け落ちするという内容であった。
あまりのことに母のおさのは怒るのを忠兵衛がなだめ、おすわを諭してなおも話を聞こうとする。おすわはついに思い余ってすべてを打ち明けた。昨日生玉の社に立寄ったおり、たまたま忠兵衛が梅川と一緒に居るところを目にし、身請けの金が出来なくては男がすたるという言葉を聞き、この三百両を廓へ持って行き梅川を身請けし、自分は身を引くつもりだったのだと。
これを聞いた忠兵衛はおすわに詫び、梅川とは縁を切ることを約束する。おさのも疑ったことをおすわに詫び、奥へと入った。そのあと利兵衛と八右衛門はなおも諦めようとはせず、最前書いた為替五十両の受取りと梅川の手付け証文を盗もうとするが、そこへ再び出てきた忠三郎に邪魔され、利兵衛は取り押さえられ八右衛門は表に突き出されるのであった。
茶屋の場)夜の新町の茶屋井筒屋では、お大尽と呼ばれる客たちが来て遊女や禿などを呼び、酒盛りをして賑やかである。そんななか井筒屋の女主人おゑんは使用人に梅川宛ての手紙を渡して使いにやらせると、まもなく梅川が来ておゑんとふたり話をする。
梅川は気が重かった。忠兵衛が五十両の金を手付けに出したおかげで、以前からの田舎の客の身請け話は止まったが、忠兵衛が残りの身請けの金を持ってくる期限は昨日で切れてしまった。これでは忠兵衛の身請け話は流れてしまう。その忠兵衛はここ十日ほど、梅川のもとを尋ねてこない。そこへ昨日からあの八右衛門が、梅川を身請けする相談を抱え主の槌屋治右衛門に持ちかけていたのである。
そこへ忠兵衛が忍んでやってくる。忠兵衛は蔵屋敷へ為替の金を届ける途中で、三百両の大金を懐にしていたが、梅川が頼んだ廓の者に呼ばれて来たのである。残りの金の工面がつかない忠兵衛は、廓に顔を出しづらかった。おゑんの手引きで忠兵衛は梅川と会い、たがいに積る話をする。
井筒屋に、梅川を探しに槌屋治右衛門が訪れる。治右衛門に呼ばれておゑんと梅川が出てくるが、治右衛門は、梅川を身請けするのが八右衛門に話が決まることを梅川に伝えにきたのだった。なおも忠兵衛のことを思う梅川は、涙ながらその話は待ってくれるように治右衛門に頼む。治右衛門は梅川が長年亀屋忠兵衛と深い馴染であることはわかっていたので、男気を出して八右衛門の話は断ることを梅川に約束した。
だがその場に八右衛門が現れ、梅川を身請けするための金二百五十両を治右衛門の前に出し、これですぐに梅川を身請けさせろという。治右衛門が忠兵衛と梅川のことを思って取り合わずにいるので、治右衛門は忠兵衛についての悪口を散々にその場で言い散らした。二階の座敷にいた忠兵衛はこれを腹に据えかね、ついに二階から飛び出し八右衛門の前に出て、大和の実の親から来た三百両、「これ見ておけ」と蔵屋敷に届けるはずの三百両を懐から取り出そうとする。だが手荒く扱ったせいで金の包み紙が自ずと破れ、小判が床に散らばった。この勢いに八右衛門は気を呑まれ、おゑんと梅川は喜ぶ。八右衛門は「ドリャおいとま致そうか」と座を立ち帰ろうとするが、そのとき破れた金の包み紙をそっと拾い、表に出て行灯のあかりで包み紙を見て驚き走り去る。
忠兵衛は身請けの金として二百両を治右衛門に、これまで井筒屋で遊んだ掛りとして五十両の金をおゑんに渡す。治右衛門もおゑんも喜んで、これから梅川の門出を祝って酒にしようというが、忠兵衛は、それはあとでよいから少しも早く梅川を連れて廓を出たいという。ではその手続きをと、忠兵衛と梅川の二人を残しみな出て行った。
やたらと出立をせかす忠兵衛を梅川は不審に思い尋ねると、なんと今出した金はじつは蔵屋敷からの預かり金で、八右衛門の悪口に辛抱することができず自分の金と偽ったというのである。飛脚屋が客の預かり物に手をつければ死罪と決まっていた。これに驚き嘆く梅川、忠兵衛も養家亀屋の養母やおすわにすまぬと思い嘆くのであった。やがておゑんたちが戻り、梅川は晴れて廓を出られる身となったが、先行きのことを思うと忠兵衛と梅川の心は暗く、門出を祝う廓の衆をあとに、大和国へと逃げて行く。
新口村の場)はたして忠兵衛たちは人から追われる身となった。忠兵衛の生れ故郷大和新口村では、すでに亀屋以外の飛脚屋十七軒が追手を送り込み、様々な物売りに変装して村中を探索し、忠兵衛たちが来るのを待ち構えていた。
そんな新口村へ雪の降る中、忠兵衛と梅川は人目を忍びながら辿り着く。忠兵衛の実の親孫右衛門は今もこの村に住んでいるが、会うことは出来ない。そこで村で親しくしていた百姓の久六をとりあえず尋ねようと、ふたりは久六の家を訪れる。しかしそこにいたのは久六の女房で、しかもその話によれば忠兵衛が金を横領して逃げている事は村中に知れ渡っており、久六もその事で今庄屋に呼ばれているのだという。それを聞いた忠兵衛たちははっとしながらも素性を隠し、久六を呼んでくれるように頼むと、久六の女房は出かけていった。
二人は家の中に入り、やがて障子を細めに開けて表の方を見ると、忠兵衛が見知った顔が寺の行事に集まるため、ぞろぞろと道を行くのが見える。だがその最後に見えたのは、孫右衛門であった。孫右衛門に会うことが叶わぬ忠兵衛と梅川は、遠くに見える孫右衛門に向って嘆きつつ手を合わせる。
孫右衛門は久六の家の前を通りかかろうとした。すると凍った道に足をとられ、その拍子に下駄の鼻緒も切れてどうと転ぶ。これを見た忠兵衛は飛び出して助けたいと思っても出て行くことはできない。すると梅川が慌てて走り出て、孫右衛門を抱え起こし泥水のついた裾を絞るなどして介抱する。
孫右衛門は、見知らぬ女からの親切を不思議に思いながらも礼をいう。下駄の鼻緒を切らしたので、孫右衛門は懐からちり紙を出してすげようとすると、梅川は「ここによい紙がござんす、紙縒りひねってあげましょう」と、自らが懐中するちり紙を出してそれを紙縒りにし、孫右衛門の下駄をすげるのだった。だが、さらに孫右衛門の持っているちり紙と、自分の持っているちり紙を取り替えたいといいつつ涙を見せる梅川の様子に、孫右衛門はこれが忠兵衛が逃げ回り連れ歩いている遊女であると悟った。孫右衛門は、近くに居るであろう息子の忠兵衛にも向けて息子のしたことを嘆くと梅川も声をあげて泣き、隠れている忠兵衛も孫右衛門に向い手を合わせて嘆くのであった。
孫右衛門は大坂亀屋の養母が牢に入れられたことを話し、養母をこれ以上苦しめず、一日も早く名乗って出ろと諭すが、「したが、どうぞそれも、親の目にかからぬ所で縄にかかってくれい」と言い、寺に納める金を路銀にせよと梅川に渡し、その場を立とうとする。梅川は忠兵衛にひと目会ってほしいと頼むが、孫右衛門は顔を合わせて捕らえなければ養家への義理が立たぬと、会おうとはしない。しかしやはり、息子への未練が断ち切れぬ孫右衛門、ならば目隠しして言葉を交わさなければよかろうと、梅川に頼んで目隠しをした。忠兵衛は駆け出て、父親と物はいえずに涙ながらに手を握り合う。
そこへ久六の女房が大慌てで駆け戻り、まもなくこの家に大勢の役人が来るから、忠兵衛たちは逃げるようにとの久六の言葉を伝える。物売りに化けた飛脚屋からの追手たちがやってきて忠兵衛を囲むが、忠兵衛はそれらを退けて落ち延びようとするのだった。(以上あらすじは、「亀屋の場」は国立国会図書館デジタルコレクション公開の『恋飛脚大和往来』[]から、また「茶屋の場」と「新口村の場」は『日本戯曲全集』第九巻所収の台本に拠った)

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
ウィキペディアで「恋飛脚大和往来」の詳細全文を読む



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