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遠隔操縦器材い号とは、大日本帝国陸軍が開発した、有線操縦可能な電動の作業機を用いてトーチカや鉄条網などの防御構造物の爆破を行う器材の総称である。い号装置とも呼ばれるが、い号とは有線(いうせん)の頭文字を取ったものである。爆破には、九七式小作業機、九八式小作業機と呼ばれる、電動車に作業機を搭載した車輛を、後方の操縦陣地から駆動させる。同様の無人爆破車輛としてドイツ軍の開発したゴリアテがあるが、直接の技術の交流などは無い。 == 概要 == い号は単独の車輛(小作業機)だけで成り立つものではなく、発電車、電動車、作業機、操縦器といったものをそれぞれ操作して戦場に投入するものである。発電車によって電気を起こし、これをケーブルを介して電動車と、電動車に搭載された作業機を駆動させる。後方に待機している操縦者がこれを操作し、目標まで走行させ、爆破や爆発物のセットといった作業を行う。各種作業機は、用途に応じた作業を無人で行えるもので、電動車は用途に応じてこの作業機を乗せ換える。電動車は単に爆破によって使い捨てにされるようなものではなく、搭載した作業機によって爆薬を投下、あるいは鉄条網の下部へ爆破管を挿入させて退避する。戦況が許す限り作業機と電動車は後方の陣地へ帰還させた。 い号の主要な構成は以下の通りである。 * 九八式小作業機 発電車 1輌 :昭和18年6月2日に仮制式が制定された。車体は九七式軽装甲車を使用し、砲塔を撤去した上で車体後部に発電機を搭載している。寸法は全長3.81m、全幅1.91m、全高1.55m。既存の車体の上部に小さな改造が施されており、操縦手席後方に車長席が設けられ、上半身を収める箱型の張り出しが上方へ設けられている。この張り出しの前面と両側面に視察用のスリットが設けられている。またこの張り出しはそれ自体が蝶番止めのハッチとなっており、前方へ開くことができた。車長席の背後には配電盤がある。発電機は減速機を介して車体中央右側に配されたディーゼルエンジンと接続しており、動力を分配されて発電する。このため走行中の発電はできなかった。発電力は直流800ボルト、15キロワットを出力した。発電車は電動車甲を3台、電動車乙を2台同時に駆動させることができた〔佐山二郎『工兵入門』九八式小作業機 発電車側面図、平面図、前面図〕。 * 被牽引車 :車重約1.4t、全長3.22m、全幅1.64m、全高2.053m。誘導輪、起動輪、転輪2個から構成される全装軌を備え、無動力の被牽引車で、外形は箱型の貨物室を備えており、側面袖部に多数の引き出しのついた収納箱を備える。この被牽引車の基本塗装は茶褐色で、外部には迷彩が施されている〔佐山二郎『工兵入門』九八式小作業機 被牽引車〕。 * 電動車甲 4輌 :車重約130kg、全長約1.8m、全幅約0.7m、全高約0.5mである。車体はシルミンという軽合金でつくられ、全装軌式である。足まわりは車体前方に誘導輪、後方に起動輪を持ち、シーソー式連動懸架方式のサスペンションに支えられた4個の転輪を持つ。上部転輪は2個。履帯は硬質ゴムで表面を覆い粛音化した。車体後部に変速機と2基のモーターを並列に配し、車体中央部には継電器を備えている。車体最前部には簡易なバンパーを備える。防水構造のモーターは直流600ボルトで稼動し、回転数は毎分2000回転、2馬力を出力した。最大速度は約18km/hである。超壕幅は約80cm、4分の1の傾斜の坂を登った。継電器甲は防水仕様の軽合金でできた箱に納められた。これは電動機のプラス・マイナスを転換して前後進を行う動作をつかさどるほか、別の継電器は作業機の動作、投下作業後に自動で後退する動作をつかさどった。操縦用ケーブルは車体後部の接続器でつながれた。車体上に搭載するものとしては、作業機のほか、大発煙筒を二個、車体に直接装備し、任意にひとつずつ発煙筒を点火、煙幕を展開できた。大あか筒によってくしゃみ性のガスを発生させることも可能である。長さ2.5mの軽合金製の橋を搭載し、壕に侵入して架橋もできた〔佐山二郎『工兵入門』九八式小作業機 電動車甲、467頁-468頁〕〔『第二次大戦の日本軍用車両』128頁〕。 * 電動車乙 2輌 :車重約290kg、全長2.334m、全幅0.98m、全高0.697mである。2馬力で最大速度は約18km/hである。超壕幅は約1m、3分の1の坂を登れた。構造と材質は電動車甲と同じであるがやや大型化されている。作業機を2台搭載でき、車体後部中央に装備された継電器乙でこれらの作業機を順次操作した。重量約200kgの防楯を車体にとりつけ、偵察兵を乗せることもできた。この場合は操縦器乙を使用する。防楯の内部は白色塗装、外部は茶褐色を基本とし、迷彩を施した〔佐山二郎『工兵入門』九八式小作業機 電動車乙、九八式小作業機 防楯、467-468頁〕。 * 一号作業機 4機 :鉄条網の爆破用に爆破管を挿入する機能を持つ。前部にモーターと変速機、ワイヤーの巻取り装置、中央部に爆破管を収納するための誘導管を配する。重量約35kg。全長1.384m、全幅0.31m。爆破管は誘導管の内部にワイヤー付きで収納される。挿入時、モーターに接続された巻取り用の鼓胴にワイヤーが巻き取られ、爆破管が誘導管内部を前進し、鉄条網の下部へ挿入される。挿入作業後、爆破管が導管を離れると、爆破管に取り付けられた導火索が点火され、自動的に電動車も後退し退避する。これらの作業はスイッチを押すだけで自動的に行われた〔佐山二郎『工兵入門』468頁〕。 * 二号作業機 2機 :電動車甲に装着するもので、集団装薬を投下できる機能を備える。後部に継電器、中央部にモーターと変速機と爆薬の投下装置、前部に爆薬を収納する筐体を持つ。重量約40kg。全長1.084m、全幅0.31m。目標に接近した後に電動車を停めると、作業機のモーターが作動し、内蔵のバーによって爆薬を押し出し、電動車の前に投下する。この投下時に爆薬が自動的に点火、電動車もまた自動的に後退をはじめる〔佐山二郎『工兵入門』469頁〕。 * 三号作業機 2機 :電動車乙に装着する。重量300kgの爆薬を搭載し、投下できる。構造は二号作業機に類似している〔佐山二郎『工兵入門』500頁〕。 * 操縦器甲 3個 :直接操縦に用いた。抵抗箱を合わせた全備重量約32kg。寸法は縦40m、横30cm、深さ15cmのカバンのような直方体で、側面と上面に操作のための小型のハンドルとダイヤルがついている。上面には持ち運びが可能なようにカバンのそれに似た持ち手がついている〔佐山二郎『工兵入門』九八式小作業機 操縦器甲本体組立〕。 * 操縦器乙(本体、携帯操縦器、一三心電纜、絡車、絡車軸)2組 :操縦陣地からさらに離れ、携帯操縦器で遠隔操縦する際に用いる。携帯操縦器はバンドとベルトで体に装着する。全備重量約41kg。 * 四心電纜 36個 :250mを一本とし、四心入りジュート巻き高圧電纜を使用した。ケーブルは摩擦や曲げ、引っ張りに強く、軽量であることが求められた。また耐水性、絶縁性が良くなければならなかった。四心入りの心線は張力強化のため、銅線のほかに鋼線が加えられている。各心線は絹糸で二重に横巻きされ、ラテックスゴムで被覆された。 * 分電器 2個 :発電車から送られた電力は分電器を介して3台の電動車に分配される。分電匡は分岐開閉器3基を備えた。 * 巻線機 3個 :二輪車の架台上に巻取車を装備し、250mのケーブルを巻取り収納する。また、数巻を直列に接続し、ケーブルを伸ばしつつ電力供給ができた。接続器は同一構造で、巻の最初と最後の区別なく接続できた。 * 付属機材一式 * その他、装甲操縦車 :装甲操縦車に電動車の操縦者も乗り、移動しながら電動車を操ることができる〔佐山二郎『工兵入門』500-502頁〕。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「遠隔操縦器材い号」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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