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適応 (てきおう、)とは、何らかの状況にふさわしいことや合致していることを指す言葉で分野ごとに異なった用法で用いられている。 *生物学・生態学において適応とは、生物種がある環境のもとで生活するのに有利な形質を持っていること、あるいは生存や繁殖のために有利な形質を持っていることを言う。後述。 *医療分野においては、治療や検査など医療行為の正当性、妥当性を意味する。いかなる場合でも施行する妥当性があることは「絶対的適応」、状況によっては妥当な場合は「相対的適応」と表現する。 *「健康保険適応がある」とは、医療費の一部または全部が保険から支払われ、保険者や被保険者(診療を受けた者、患者)の負担が軽減する状態を指す。 *医師は処方箋を書く際、使いたい薬剤の適応のある疾患名を、診療録の病名及び主要症状に記す必要がある。 *制御工学では、制御対象の特性が未知または予測不可能で最適な制御パラメータを事前に決定できない場合、実際の制御時に特性を検出し、それに応じて制御パラメータを変えることを適応という。コンピュータにおける適応とは通常この意味だが、例外として、遺伝的アルゴリズムでは生物学と同じ意味で適応という言葉を使う。 *心理学における適応とは、一般的な社会生活を問題なく送れること。適応障害も参照のこと。 *生理学や心理学では順応と訳されることもある。暗順応を参照のこと。 == 生物学における適応 == 適応には複数の意味があり、文脈や用いられる分野によって若干異なる。 #ある生物のもつ形態、生態、行動などの性質が、その生物をとりかこむ環境のもとで生活してゆくのにつごうよくできていること〔生物学辞典 第四版 p.958 【適応】〕。あるいはそう判断できること〔広辞苑 第五版 p.1824【適応】〕。 #ある生物個体の生存率と繁殖率を増加させられるような特徴のこと。あるいは生存率や繁殖率の向上をもたらす変化の過程〔。 一般的な意味では、1のように生物がその環境の中で生活するのに役立つ特徴を持っている状態を適応している、あるいは適応的であると言う。 「適応」と言うと主に遺伝的な変化を指しているが〔(遺伝子の変化、表現型)、環境にかなった形態・生態・行動などの変化の中にも遺伝的でないものがあり〔、それも含めて適応と呼ぶ場合もあるが、それら区別して後者を「順応」accommodation と呼び分けることも多い〔〔。 現在存在している生物の多くは適応している(適応的)と考えられているが、現存の生物の全てが適応しているとは限らない〔。適応的でないことを maladaptation マラダプテーション と言う〔。 適応がいかにして起きているのかについての説明としては、生物学史的に見ると様々な説が提示されてきた過去があり紆余曲折があったが、現在では、自然選択が唯一の自然科学的なものであると考えられている。ただし、適応と自然淘汰の関係をどのように定義するかは研究者によって異なっている〔。 1の意味の適応についてもう少し解説すると、たとえばアザラシやオットセイは手足がヒレ型であり、明らかに水中生活に都合のよい形をしているが、他方で頭蓋骨などの特徴からは食肉目に属するもので、イヌやネコと近縁と考えられる。この場合、陸上生活のものが先祖型と考えられるから、その手足は歩脚型であったはずで、それが現在のヒレ型になったのは、水中生活で便利なように変化したのだと生物学では考える。オットセイは両手両足を歩行に利用できるが、アザラシはそれもできなくなっており、後者の方がより水中生活への適応が進んだ(そのぶん陸上では適応的でなくなった)ものと考える。 適応を形作る要因は主に種内の個体間競争であり、算術平均的に他の個体(あるいは他の生物)よりも生存と繁殖に有利であることを意味する。したがって「適応」は「完璧」と言う意味ではない。 しかし同じ種の生物が持つ、適応的と見られる形質でもみな全く同じではなく、個体ごとにわずかな差がある。アザラシのヒレは他の陸上動物が持つ手足よりは水中生活に適しているが、アザラシの個体間で比較した場合、全ての個体がまったく同じヒレを持つわけではない。つまり同じ種の同じ形質であってもより有利な形質とそうでない形質が存在することになる。そのためより厳密な定義では、個体の生存と繁殖成功率を増加させられる形質のことを指す(#2)。これを適応的な形質(行動)とよぶ。また、その形質が自然選択で広まって行く過程も適応と呼ぶ。ある形質がどの程度適応しているかを適応度とい、数学的にあらわされる。適応度は厳密に定義された用語であるため、非数学的な文脈では「適応価」と言うこともある。 生物学的適応は世代を超えて進化の過程として起きる現象で、個体の中で起きる変化ではない。また遺伝しない形質に対しては用いない。生物の形質の中には表現型可塑性を持ち、環境に合わせて変化するものもあるが、その変化は適応とは呼ばない。ただし表現型可塑性自体は選択を受ける適応的な形質である。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「適応」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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