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HE0450-2958は、特異なクエーサーである。ホスト銀河を欠いているように見えるため、"naked quasar"や"quasar without a home"と呼ばれる。地球から約10億パーセク離れていると推定されている。 ==歴史== ベルギーのリエージュ大学のPierre Magainが率いる研究チームは、2005年9月14日付のネイチャーに自身の発見を公表した〔Magain, P. et al. (2005), Discovery of a bright quasar without a massive host galaxy , ''Nature'', 437, 381〕。このクエーサーはスターバースト銀河(図の左上)の近くに見えるが、クエーサー自体(図の中央)の近くに銀河は見当たらず、論文の著者は次のように推測している。
クエーサーのホスト銀河が検出を免れるためには、Magainらは、これらのクエーサーに期待されるホスト銀河より5等級(100倍)暗いか、クエーサーを持つ銀河は通常は直径が5000から5万光年の直径であるのに対し、300光年以下である必要があると推定した。 Magainらの論文が発行された直後の11月6日の週に、この天体の奇妙な性質について説明を試みた3報の理論的な論文が出された。そのうちハーバード大学〔Hoffman, L. and Loeb, A. (2005), Three-Body Kick to a Bright Quasar out of Its Galaxy During a Merger , arXiv:astro-ph/0511242〕とケンブリッジ大学〔Haehnelt, M. et al. (2005), Possible evidence for the ejection of a supermassive black hole from an ongoing merger of galaxies , arXiv:astro-ph/0511245〕からの2報の論文は、このクエーサーは、重力波放射の反動か3つのブラックホールとの相互作用のためにスターバースト銀河の中心から弾き出された超大質量ブラックホールであると示唆している。元のホスト銀河からクエーサーがこれほど遠ざかるためには、放出速度は約1000 km/sは必要である。 David Merrittの率いるチームによる3つめの論文は、銀河からの放出仮説を批判的に検証し、この仮説は正しくないとの結論に達した。2つの主な論拠は、(1)このクエーサーのスペクトルは、これが狭輝線1型セイファート銀河(NLS1)であることを示している。NLS1は非常に小さなブラックホールを持っていると考えられており、ブラックホールの大きさは銀河の大きさに強く依存するため、このクエーサーのホスト銀河は非常に小さいはずで、Magainらの観測で検出できなかった。(2)このクエーサーのスペクトルは、狭輝線領域(NLR)の存在も示している。狭輝線を作るガスは、ブラックホールから約1000光年離れた位置にあり、このようなガス雲はブラックホールとずっと結合していることはできない。著者は、「裸の」クエーサーは、実際は、たまたまスターバースト銀河の近くにあった通常の狭輝線セイファート銀河であると結論づけた。 2005年以降の多くの研究がこの結論を支持している。(1) Kimら(2006)〔Kim, M. et al. (2006), The Host Galaxy of the Quasar HE 0450-2958 , ''The Astrophysical Journal'', 658, 107〕は、より精密にクエーサーのホスト銀河を探索し、クエーサーからの紛らわしい光のため、銀河の存在を排除することは不可能であると結論付けた。(2) Zhouら(2007)〔Zhou, X.-L. et al. (2007), X-Ray Properties of the Quasar HE 0450-2958 , ''The Astronomical Journal'', 133, 432〕は、クエーサーからのX線放出を観測し、それをブラックホールの質量を推定するために用いた。彼らはブラックホールが小さな質量であることを確認し、ホスト銀河の明るさがMerrittの予測よりも暗いことを示唆した。(3) Feainら(2007)〔Feain, I. et al. (2007), Dressing a Naked Quasar: Star Formation and Active Galactic Nucleus Feedback in HE 0450-2958 , ''The Astrophysical Journal'', 662, 872〕は、クエーサーからの電波放射を検出し、それを星形成が行われつつあることを示すと解釈した。 現在のコンセンサスは、HE0450-2958は恐らくホスト銀河を持っているが、明るいクエーサーの光に隠れて観測が難しくなっているというものである。しかしヨーロッパ南天天文台の研究の後、このコンセンサスにも疑問が呈されている〔Elbaz.D. et al (2009) Quasar induced galaxy formation: a new paradigm? Astronomy & Astrophysics 507, 1359-1374〕。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「HE0450-2958」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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