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ねじ式 : ウィキペディア日本語版
ねじ式[ねじしき]

ねじ式』(ねじしき)は、つげ義春により1968年月刊漫画ガロ』6月増刊号「つげ義春特集」に発表された漫画作品。短編の多いつげ義春の作品の中でも特に有名で、彼を代表する作品として作品集の表題作ともなっている。日本漫画だけにとどまらず、多くの分野に多大な影響を与えた。
== 概要 ==

海岸でメメクラゲに左腕を噛まれ静脈を切断された主人公の少年が、の恐怖に苛まれながら「医者はどこだ」と言いながら医者を求めて漁村らしき奇怪な町を放浪し、不条理な目に遇いながらも、ついには必要とした女医(産婦人科医)に出会い「シリツ」(手術)を受けることができ、事なきを得るという話である。
つげが水木しげるの仕事を手伝っていた頃に下宿していたラーメン屋の屋上で見た夢が元になっているが、夢をそのまま描いたものではなく、ほとんどは創作である。実際はこうしたシュールなものを描きたいという構想はかなり以前からつげの中にあったものの、それまでの漫画界においては、あまりにも斬新であるため、発表する機会が得られなかった。直前までのつげは、一連の「旅もの」で人気を博していた。しかし、原稿に締め切りが迫りネタに尽きたつげは、それまでに構想にあったこの作品を思い切って発表した。完成までには3か月を要している。『ガロ』という自由な表現の場を得たことがこの作品を世に出す原動力となった。
タイトルの『ねじ式』は、シリツの際、治療のため女医によって取り付けられた血管を接続するためのバルブねじからきている。女医自身はこの治療法を『○×方式』と呼び、少年に決してそのネジを締めることのないよう注意する。ラストシーンのモーターボートが走るシーンは未完の作品「湖畔の風景」から流用している(『つげ義春漫画術』下巻)。
作品の舞台となった漁村は、エッセイ集『つげ義春とぼく』の中でつげ自身によって、千葉県の太海(太海漁港)を想定して描いたとされているが、後に『つげ義春漫画術(下巻)』での権藤晋とのインタビューの中では、作品全体は太海を想定して描いたのではないと否定している。しかし、作中で主人公の少年がキツネの面を付けた少年の運転する蒸気機関車によって連れ戻される終着の「もとの村」に描かれた民家の建て込んだ場面の絵に、ほぼ同一の場所が太海漁港のすぐそばに今も見つけることができる。ほかにも少年がイシャを求めて、彷徨い歩く漁村によく似た軒の低い家屋や小屋が建ち並ぶ海岸沿いの場所などが各所に散見される。また作中、少年が「イシャはどこだ」と叫ぶコマに登場するレンチ(両口スパナ)を持った中年の男は『定本木村伊兵衛』に全く同じ構図の写真が見られ、アイヌ人の知里高央がモデルであることが知られている〔漂泊のブロガー2:本日の発見 〕。
発表当時、そのシュールな作風と常軌を逸した展開から漫画界以外でも大いに話題となり、フロイト流の精神分析による評論まで試みられたが、つげ自身はそうした解釈には反発を感じており、全く当たっていないと一蹴している。作風がシュールであるために深読みされ、作者の深層が全部出ていると誤解されやすく、「創作の意味が分からない初期の作品では垂れ流し的に描くから自身の内面が表れやすいが、何年も描いていると作品としての構成を考え、セリフひとつにも自覚して描いているため、自身の内面が出ることは少ない」とつげ自身は述懐している〔つげ義春 『つげ義春漫画術』(下) ワイズ出版、1993年10月 ISBN 4-948735-19-1〕。
夢に着想を得て漫画を描いたのは、漫画界ではつげが初めてである。これはのちに『夢の散歩』(1972年)、『ヨシボーの犯罪』(1979年)、『外のふくらみ』(1979年)などにつながっていく〔『芸術新潮』(新潮社)2014年1月号〕。また、つげの作品では初めてリアルな女性の裸体が登場するが、当時の漫画界においてもこれほどにリアルな裸体は例がなかった。権藤晋によれば、「つげの性的な何かが開放」された。そのため、それを描いたことで「思い切って描いた」「こんなエロ画を描いて人に見せた。自分を晒した」(つげ自身の言葉)という開放感を味わい、『ゲンセンカン主人』や『夢の散歩』、さらには私生活を赤裸々に描いた『つげ義春日記』へとつながっていった。

抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)
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