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スクールカースト(または学校カースト〔森口朗『スクールカーストとは何か〜その3〜 』森口朗公式ブログ(2007年6月4日)〕〔「学校カーストが「キモメン」生む」『AERA』2007年11月19日号、62-63頁〕)とは、現代の日本の学校空間において生徒の間に自然発生する人気の度合いを表す序列を、カースト制度のような身分制度になぞらえた表現。もともとアメリカで同種の現象が発生しており〔ジョック#階層構造の図象を参照。〕、それが日本でも確認できるのではないかということからインターネット上で「スクールカースト」という名称が定着した〔。 2006年11月16日の衆議院「青少年問題に関する特別委員会」で参考人となった教育学者の本田由紀が言及したあと〔衆議院会議録情報 第165回国会 青少年問題に関する特別委員会 第3号 〕、教育評論家の森口朗も著書『いじめの構造』で2007年に紹介し、その後教育や文芸批評の文脈で議論の対象とされるようになった。ただし、スクールカーストという言葉が流通するようになる前の1990年代から学校内に序列があること自体は研究者から指摘されており〔松谷創一郎 『ギャルと不思議ちゃん論: 女の子たちの三十年戦争』 原書房、2012年、285頁ISBN 978-4562048588。〕、欧米などでは、およそ1990年代初期頃からヒエラルキー化が意識されるようになった〔『ギャルと不思議ちゃん論: 女の子たちの三十年戦争』289頁〕。雑誌『AERA』2007年11月19日号にはスクールカーストという言葉を初めてインターネット上に登録したと述べている当時29歳の男性への取材記事が掲載されているため、この記事を信じるならば、これがスクールカーストという語の初出といえる〔『教室内カースト』30-33頁〕。 == スクールカーストの構造 == 現代の学校空間では、クラス内にいくつかの友達同士のグループが形成され、それらの内部で活発に交流が行われるだけで人間関係が完結する現象がみられる。社会学者の宮台真司は、教室内に限らず若者のコミュニケーション空間全般で発生しているこの変容を「島宇宙化」と呼び、分断された各グループ(島宇宙)は優劣のつけられない横並びの状態になっており(フラット化)、異なるグループ間でのつながりが失われたと論じた〔宮台『制服少女たちの選択』講談社、1994年。ISBN 978-4062053549。〕。これについて本田由紀や評論家の荻上チキは、分断化自体は認めながらも〔ただし本田は、後述するアンケート調査で「いつも一緒の友だちグループ以外の人とは、特に仲良くしたいと思わない」という質問への否定的な回答が全体の3/4を超えたことを根拠として、自身の所属するグループの外へのコミュニケーション接続の志向も残ってはいることを指摘している。荻上は、(インターネット環境の普及を背景として)全体としてある程度の棲み分けが進行する一方で、個人は単一の島宇宙にとどまるのではなく複数の島宇宙に帰属して常時接続することが求められるとして、これを「コミュニケーションの網状化」と呼んでいる。〕、教室内の各グループは等価な横並び状態にあるのではなく序列化(上下関係の付与)が働いていると述べている〔『学校の「空気」(若者の気分)』41-45頁〕〔『ネットいじめ――ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」』 199-202頁〕。この序列はスクールカーストと呼ばれ、精神科医の和田秀樹は、現代の若者は思春期頃に親から分離した人格を得て親友をつくっていくという発達プロセスを適切に踏むことができていないため、同じ価値観を持つ親友同士からなる教室内グループを形成することができず代わりにスクールカーストという階層が形成されたのだとしている〔『なぜ若者はトイレで「ひとりランチ」をするのか』172-173頁〕。スクールカーストでは、上位層・中位層・下位層をそれぞれ「一軍・二軍・三軍」「A・B・C」などと表現する〔『いじめの構造』43頁〕。 一般的なイメージとしては、以下のようになる〔『キャラクター精神分析 マンガ・文学・日本人』20頁〕。 * 恋愛・性愛経験 - 豊富なほど上位 * 容姿 - 恵まれているほど上位 * ファッションセンス - 優れているほど上位 * 場の空気 - 読めたり支配できたりするほど上位 * クラブ活動 - 運動系は上位、文化系は下位 * 趣味・文化圏 - ヤンキー・ギャル系は上位〔『ネットいじめ――ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」』152頁〕、オタク系は下位 * 自己像〔精神科医の斎藤環は、若者の傾向をコミュニケーション能力は低いが自己像が安定的な「引きこもり系」とコミュニケーション能力は高いが自己像が不安定な「自分探し系」に大別した。〕 - 自分探し系は上位、引きこもり系は下位〔『キャラクター精神分析 マンガ・文学・日本人』24頁〕 森口朗によれば、スクールカースト上での位置決定に影響する最大の特性はコミュニケーション能力である〔一般に社会で人間に対する評価指標がコミュニケーション能力・人間力といった抽象的なものにシフトしているということは、例えばハイパー・メリトクラシーという用語でも論じられている。〕。クラス内でのステータスの上下関係自体は以前からあったものの、それは運動神経や学力が大きく関係したものであり、そうではなく判断基準がほとんどコミュニケーション能力に依存している点がスクールカーストの新しい点であるといえる〔。ここでいうコミュニケーション能力とは、具体的には「自己主張力(リーダーシップを得るために必要な能力)」「共感力(人望を得るために必要な能力)」そして「同調力(場の空気に適応するために必要な能力)」の3つを指す〔『いじめの構造』44頁〕。和田によれば、コミュニケーション能力の有無に偏重したスクールカーストという序列が発生した背景には、学業成績の相対評価を廃止するなど生徒に対する序列付け自体を否定するような過剰な平等主義があり、「学業成績」「運動能力」といった(努力で挽回可能な)特性によるアイデンティティを失った子供たちは「人気(コミュニケーション能力)」という(努力で挽回不可能な)特性に依存した序列付けを発生させてしまったのだという〔『なぜ若者はトイレで「ひとりランチ」をするのか』65頁・86-87頁〕。カーストの規定要因については、本田が統計分析を用いて具体的に研究している(後述)。スクールカーストとコミュニケーション能力の関係について、中高生の交友関係を研究している鈴木翔は、「自分の意見を押し通す」能力とスクールカーストの高低には相関関係があるものの、「友達の意見に合わせる」能力とスクールカーストの高低にはあまり相関がみられないという統計に注目している。この事実からは、コミュニケーション能力があるからカースト上位になるのではなく、カースト上位にいるからそれを利用して他人に自分の意見を押し付けることができるようになり、コミュニケーション能力があると判断されているという解釈も可能となる〔『教室内カースト』130-132頁〕。 スクールカーストの格差は小学校段階で発生するもののまだ目立たないが、思春期(中学校ぐらい)からは顕著にみられるようになる〔『キャラクター精神分析 マンガ・文学・日本人』 19頁〕。大学に入ると高校までのように常に同じ教室内で生徒同士で時間を過ごすのではなく自由に講義を履修するようになるためスクールカーストのような人間関係は薄れていくと考えられるが、実際には(後述するようないじめに発展するような熾烈な事態にはならないにせよ)場の空気を読むことが強制されコミュニケーション能力が過大評価されるような高校までの環境の延長線上にあるような大学も相当数あり〔『なぜ若者はトイレで「ひとりランチ」をするのか』186-187頁〕、SNSでの交友関係の広さや恋人の社会的地位などによって決まるとされる「女子大生カースト」の特集が女性向けファッション雑誌で組まれたこともある〔「自分が好かれているかが気になって仕方がない 女子大生悩ます「カースト」問題の深刻 」J-CASTニュース (2013年7月14日)〕。 鈴木は自身の行ったインタビュー調査に基づき、小学校時代のスクールカーストと中学・高校時代のスクールカーストでは、それがどの程度強く意識されるかという程度の差だけではない異なった様相がみられると論じている。それによると、小学校の段階では生徒の地位の高低が特定の生徒の名前と結びつけて認識されているのに対し、中学以降では「(地位の高い)ギャル系」「(地位の低い)オタク系」というようなグループ単位で認識されている傾向があるという〔『教室内カースト』96頁〕。 和田によれば、スクールカーストによる階層化には地域差が存在するという〔『なぜ若者はトイレで「ひとりランチ」をするのか』73-77頁〕。スクールカースト化は人間関係の流動性が低く閉鎖的な場(いざというときに逃げられない状況)で起こりやすい現象であるため、具体的には以下のような地域ではカースト化が進みにくいと考えられる。 * 学習塾への通塾率が高い地域 - 塾という学校とは別の場が用意されているため * 中学受験への意識が高い地域 - 受験によって別々の学校に進学し友人関係がリセットされるため * (公立中学校の)学校選択制がある地域 - 受験しなかったとしても、友人関係のリセットが行われるため 小中一貫校(9年制)や中高一貫校(6年制)のような一貫教育は、スクールカーストの条件が整いやすい。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「スクールカースト」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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