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『ティモテオスの肖像』(ティモテオスのしょうぞう、)は、初期フランドル派の画家ヤン・ファン・エイクが1432年に描いた絵画。オーク板に油彩で描かれた板絵で、『レアル・スーヴェニール』あるいは単に『男性の肖像』と呼ばれることも多い。描かれている男性が誰なのかは伝わっていないが、当時よく描かれていた理想に基づく架空の人物ではなく、その外貌から実在の人物だと考えられている〔Smith, p.42〕。『ティモテオスの肖像』は1857年にロンドンのナショナル・ギャラリーが購入し、以来ナショナル・ギャラリーに常設展示されている〔"Portrait of a Man ('Léal Souvenir') ". National Gallery. Retrieved 20 April 2013.〕 。 描かれている男性は謎めいた表情を浮かべており、漂う雰囲気とその外観とは不釣り合いな印象を与えている。男性の容貌は「地味で素朴」と表現されているが、物思いにふける内省的な表情にも見える。多くの美術史家が男性の表情に悲哀が見られることを指摘しており、美術史家エルヴィン・パノフスキーはこの悲しみがおそらく「孤独」から来ていると解釈している。 画面下部には石を模した欄干のようなものが描かれ、その表面に三行の銘が記されている。とくに二行目の銘は石に刻まれているように見える錯視的効果を与える手法で描かれている〔Panofsky, p.80〕。銘の一行目にはギリシア語で「」と読める銘が記されている。この文言が何を指しているのかについては諸説あるが、『ティモテオスの肖像』という作品名の由来となっている。二行目にはフランス語で「」(忠臣の追悼)と記されており、この作品が描かれている男性の死後に追悼の意をこめて制作されたことを示している。三行目にはファン・エイクの署名と制作年が法律文書のような文体で記されている。描かれている男性の素性が判明していないとはいえ、ブルゴーニュ公フィリップ3世の宮廷画家だったヤン・ファン・エイクが肖像画を描くに足る、ブルゴーニュ宮廷の重要人物だったと推測されている。 19世紀の美術史家ヒッポリト・フィアンス・ゲヴァルトはギリシア語で記された「ティモテオス」が、古代ギリシアの詩人、音楽家であるミレトスのティモテオス (:en:Timotheus of Miletus) だと推測した。20世紀の美術史家エルヴィン・パノフスキーも、ティモテオスという名前を持つ著名な古代ギリシア人を精査した。そして、歴史上著名な「ティモテオス」の多くは宗教家あるいは軍人であり、この作品に描かれている男性が着用している衣服とは合致しないとして、消去法の結果ゲヴァルトと同じく音楽家のミトレスのティモテオスのことであると結論付けている。パノフスキーはミレトスのティモテオスが、フィリップ3世の宮廷で高く評価されていたと考えていた。ただし、現在の研究家たちは、三行目に法律文書のような文体で記された銘から、描かれている男性はフィリップ3世の法律顧問官だったのではないかとするものも多い〔Wood, p.650〕。 『ティモテオスの肖像』は、直接的あるいは間接的に何度も模写された。銅板に描かれたよく似た肖像画がベルガモやトリノで見つかっているほか、ファン・エイクの弟子といわれるペトルス・クリストゥスが1446年に描いた『カルトゥジオ会修道士の肖像』には、『ティモテオスの肖像』のような彫刻風の銘が記された欄干が画面最下部に描かれている〔"Jan van Eyck ". Metropolitan Museum of Art. Retrieved 20 April 2013.〕。 == 外観 == 『ティモテオスの肖像』は、中世後期の西洋美術で世俗の人物を描いた肖像画としては現存する最古の作品のひとつで、西洋絵画に新たな境地をもたらした象徴的な作品ともいわれている。その写実性や鋭い観察眼による男性の表情の詳細表現など、様々な点に新たな表現技法が見て取れる。このような写実表現を画家たちにもたらしたのは、油彩技法の革新だった。油彩の発展が滑らかで透明感のある画肌を実現し、何層にもわたる顔料の重ね塗りを可能とした。顔料がまだ濡れている状態での重ね塗りやかき混ぜることが可能であることが、画家たちに精密な詳細表現をもたらしたのである〔Smith, p.61〕。反射する光の明度の描き分け、陰影表現や〔Jones, pp.10 - 11〕、光が周囲に与える微細な効果描写も、透明で艶のある画肌を得ることができる油彩で可能となった絵画技法だった〔Borchert, p.22〕。 『ティモテオスの肖像』の銘が記された欄干は石を模して描かれており、表面のひび割れや傷も表現されている。このモチーフは古代ローマの葬礼美術 (:en:funerary art)、とくに石造りの墓碑の影響を受けている。死者を描いた肖像画に厳粛な雰囲気をもたらしているこの欄干は、複数の役割を与えられている。欄干表面に描かれたひび割れや傷は悠久の時の流れを示唆し、美術史家エリザベト・ダネンスは「現世のはかなさ、あるいは石が持つ遙かな記憶」を表しているとした。さらに石に模された欄干は、描かれている男性の専門的技能を刻むのに最適な土台の役割も担っている〔。ミラード・メイスは、『ティモテオスの肖像』がファン・エイクが人物を描いた絵画として知られる作品としては二番目に古い作品であることを指摘し〔二名の制作依頼主の肖像が描かれた『ヘントの祭壇画』は、1431年か1432年初頭に完成している。〕、男性の大きさとの比較において欄干のサイズが目立つのは、若きファン・エイクが経験不足で、構成力が未熟だったためではないかと推測した。メイスはファン・エイクが「自身が持つ高度な絵画技量を見せつけようとするがあまりに、全体の構成を疎かにしてしまった」のではないかとしている〔Meiss, p.138〕。 『ティモテオスの肖像』の下塗りにはおそらくチョークが使用されている。赤外線による解析で短いハッチングの痕跡、顔、両腕、両手の下絵が発見された。両手の描写は下絵から変更されており、下絵の指はもっと短く、右手の親指はさらに立てられていた。また欄干の高さも下絵の方が低く表現されていた。また、顔料の解析によって顔の肌色が白色と朱色の色素の混合により作成され、赤色のレーキ顔料の上に灰色、黒色、青色、群青色で縁どりと陰影が表現されていることが判明している〔Campbell, p.218〕。 『ティモテオスの肖像』の支持体となっているのは薄さ8mmのオークの一枚板で、画肌ぎりぎりまで切り落とされており、顔料が塗布されていない箇所は画面左上のごく一部のみである。取り付けられている補強材は、おそらく19世紀に交換されている。現在の補強材は8本の木片で、4本は画面裏側の縁を囲む骨組みとして、残り4本は留め具として使用されている〔。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「ティモテオスの肖像」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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