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『トリストラム・シャンディ』(''The Life and Opinions of Tristram Shandy, Gentleman'')は、イギリスの小説家ローレンス・スターンが書いた未完の小説。全9巻からなる小説で、1759年の末から1767年にかけ、2巻ずつ(ただし最後の第9巻は単独で)5回に分けて出版された。 == 解説 == 一見、内容は荒唐無稽、奇抜そのものであり、例えば一貫したストーリーは欠如していて、牧師の死を悼む真っ黒に塗り潰されたページ、読者の想像のままに描いてほしいと用意された白紙のページ、タイトルだけが記された章、自分の思考を表す marble pages と呼ばれる墨流し絵のようなページ等、読者をからかうがごとき意匠に満ちている。アスタリスクやダッシュの多用、さらに、この作品の話の進行状況を曲線で表す等、まさしく奇抜な形態をほしいままにしている。 しかし、実はジョン・ロックの「観念連合」(連想作用)の理論を取り入れた緻密な配慮の下に語りが展開されており、登場人物の思考を無秩序で絶え間ない流れとして描く「意識の流れ」の手法を先取りしているとされる。そのため、後のマルセル・プルースト、 ジェイムズ・ジョイス、ヴァージニア・ウルフ、アンドレ・ジッド、オルダス・ハックスレーなどの、時間を意識した新心理主義文学の先駆的作品として評価は高い。 まともな小説であれば守るべき語り方のルールを片っ端から破り、ありがちな小説の形式を徹底的に破壊することによって小説というものが本来備えている形式を自覚させる、すなわち掟破りによって掟を自覚させるところが、ロシア・フォルマリズムの批評家ヴィクトル・シクロフスキーに評価され、「世界文学における最も典型的な小説だ」と評されたこともある。 ヨーロッパ近代小説の勃興期である18世紀に書かれた作品であるにもかかわらず、語り手トリストラムが読者たちと対話するなどメタフィクション的な仕掛けに富み、古今の文献から断片的な引用をつなぎ合わせてマニア的な知識をひけらかすところはポストモダン文学を思わせる。ウェブサイトに代表されるようなハイパーテキスト(多数の文章の断片をリンクで結んだテキスト)の先駆けとも言われている。実際、めまぐるしく脱線しながら短い話がでたらめに並べられていく本作を読むのは、首尾一貫した構成を持つ近代小説というより、ウェブサイトやブログをまとめ読みする感覚に近い。 ただし、そうした見かけの「現代性」は本作によって突然変異的に発生したわけではなく、むしろエラスムスの『痴愚神礼讃』、ラブレーの『ガルガンチュア物語』、セルバンテスの『ドン・キホーテ』、スウィフトの『桶物語』といった過去の滑稽文学・諷刺文学の伝統に根ざした特徴である。作者と読者との交流、メタフィクション的な語り、アスタリスクやダッシュを多用するタイポグラフィ上の実験といったものも、実はサミュエル・リチャードソンやヘンリー・フィールディングといった18世紀イギリスの先輩作家、そして『イーフレイム・トリストラム・ベイツ氏の生涯と回想』(1756年)といった同時代の小説の影響を色濃く受けている。 とはいえ、全9巻を通してあの手この手で読者をからかい続ける本作が、他にはあまり例のない、とびきり奇妙な小説であることはまぎれもない事実である。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「トリストラム・シャンディ」の詳細全文を読む 英語版ウィキペディアに対照対訳語「 The Life and Opinions of Tristram Shandy, Gentleman 」があります。 スポンサード リンク
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