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ブースト型核分裂兵器 ()は、通常は少量の核融合物質を用いて余分な中性子を発生させ、核分裂の頻度を増加させることで、早期発火(predetonation、または未熟核爆発 (fizzle yield) )を防ぐとともに核出力(nuclear yield)を増強するタイプの核兵器 (爆縮型核分裂兵器) を指す。この方式による核分裂(そして核出力)の増強効果をブースト、そのためのメカニズムをブースターと呼ぶ。核融合反応を利用するが、それによる発生エネルギーの増加はごく僅か、恐らく 1 % 程度であり〔"Facts about Nuclear Weapons: Boosted Fission Weapons" , Indian Scientists Against Nuclear Weapons〕、その主な目的が核分裂反応の増強である点で水素爆弾などの核融合兵器とは異なる。 ブーストによる早期発火の防止は、原子炉級プルトニウム(reactor grade plutonium、RGPu)で核分裂兵器を製造する際の鍵となる技術でもある〔原子炉級プルトニウムと兵器級プルトニウム調査報告書 、社団法人 原子燃料政策研究会〕。 このブーストというアイデアは、1947年の秋から1949年の秋の間に、米国のロスアラモス国立研究所で初めて開発された 〔http://www.fas.org/nuke/guide/usa/nuclear/bethe-52.htm〕。 ==原理== 爆縮型核分裂兵器では、核分裂物質は、通常爆薬によって生み出される、均一な球面状の爆縮衝撃波によって、高速で圧縮合体されて超臨界状態になる。この超臨界状態では、核物質の外部に漏れる中性子や吸収だけされて核分裂が誘発されない反応による中性子の消耗を差し引いても、核分裂反応で放出される中性子が十分な量の他の核物質の核分裂を誘発し、さらに連鎖することで全体として中性子数が増加していく連鎖反応を形成する。この単純な連鎖反応で、核兵器自身がバラバラに飛散する前までに(核物質コアが飛散すれば未臨界状態になり、その時点で未分裂の核物質はもはや分裂できなくなる)分裂できる核物質は、最大で 20% に過ぎない。条件が理想から遠い場合は、この比率はさらに悪化する。 また、核物質が圧縮合体されて十分な超臨界状態になる前に、連鎖反応が最低限持続する臨界状態(後述する が 0 に近い状態)となる瞬間がある。この状態で核物質内部で十分に高いエネルギーを持った中性子が生成されるか、外部から侵入すると、核物質の圧縮合体が不完全な状態で連鎖反応を開始してしまうため、生成される核エネルギーで核物質の圧縮合体はその時点で急激に阻止され、大部分の核物質が未分裂のままで飛散してしまう。これが早期発火である。臨界状態におけるこのような不都合な中性子生成の最大要因は、核物質 (主成分は通常は Pu239) 中に不純物として含まれる、自発核分裂を起こすことができる同位体(通常は Pu238、Pu240、Pu242) の存在である。 正規の爆縮型核兵器において、Pu239 の比率がおよそ 93% 以上の兵器級プルトニウム(weapon grade plutonium、WGPu)を用いる主目的は、早期発火を防止して、設計値通りの核出力を高い信頼性で得るためである (他に貯蔵中の核物質の発熱と放射線を低レベルに抑えるという目的がある)。兵器級プルトニウムを用いた核兵器では、超臨界状態がピークに達する適切なタイミングで、核物質の外部から連鎖反応の引き金となる中性子を供給するメカニズムが必要となる。 ブースト型核分裂兵器では、通常は核融合物質として二重水素 (deuterium)ガス と三重水素(tritium) ガスの混合物を用いる。起爆時にはまず核分裂反応が開始し、大部分の核分裂物質が未反応の初期段階で、核分裂反応に伴う高温高圧によって二重水素1原子核と三重水素1原子核が二重水素―三重水素 (D-T) 融合反応を開始する。核融合反応率は20から30メガケルビンで十分大きな値となる。この温度は、1 % 未満の核物質が分裂した、非常に低効率の段階で達成されてしまう (これはTNT換算で数百トンの爆発力に相当する)。 核融合反応によって放出される中性子が、核分裂反応で放出される中性子に加算され、これがさらに多数の核分裂反応を誘発して中性子を放出させる。これにより、核分裂の頻度が非常に増加するため、核物質自身の発生させたエネルギーで核物質が分解して飛散する前に、より多くの核物質が核分裂を起こすことができるようになる。 超臨界状態における核物質内の中性子の (そして核分裂の) 増加率を表現する数値として、ある時刻における中性子の増加率を、その時刻における中性子の総数で除した値が用いられ、記号としては または が用いられる〔J.Carson Mark, Reactor-Grade Plutonium's Explosive Properties, 1990 , NUCLEAR CONTROL INSTITUTE 〕。 は実際には時刻とともに変動する時刻関数であるが、この値が一定であると仮定すると、 を適当な定数として、時刻 における中性子数は と表現される(電子回路における時定数と類似している。単位も同様に時間の逆数の次元を取る)。この式から、 が 0 であれば中性子数は増加も減少もしない、つまり臨界状態にあることが分かる。 ブーストを用いない核分裂兵器では、核物質がプルトニウムの場合でもウランの場合でも、 の最大値は 1/sec からその数倍程度となる〔。D-T融合によるブーストを行うと、この値は約1桁大きくなる。 さらに、二重水素と三重水素の融合によって発生する中性子のエネルギーは、14 MeVであり、核分裂反応によって発生する平均的な中性子のエネルギーである 2 MeV 〔原子核物理の基礎(4)核分裂反応 (03-06-03-04) 、原子力百科事典 ATOMICA〕 と比較すると7倍もエネルギーの高い中性子を生成する。この高エネルギー中性子は、次のような理由で、核分裂中性子よりもさらに核物質に吸収されやすく、また核分裂を発生させ易い。 # 核融合による高エネルギー中性子が核分裂物質の原子核に衝突した場合、核分裂由来の中性子による衝突と比較して、より多数の2次中性子が放出される (例えば Pu-239 の場合 2.9 に対して 4.6)。 # 核融合による高エネルギー中性子に対する核分裂断面積は、核分裂による中性子の場合より全断面積がより大きくなり、それに比例して散乱断面積も捕獲断面積もより大きくなる。 ブーストによる寄与効果の大きさは、用いられる核融合物質の量を考察することで説明される。1モルの二重水素(約 2 g)と 1モルの三重水素(約 3 g)が完全に核融合すると、1モルの中性子が生成される。中性子の外部への漏出によるロスと、中性子が原子核に衝突しても散乱のみで核分裂が起こらない場合を無視すると、この中性子は 1モルのプルトニウム(約 239 g)を分裂させ、これによりさらに 4.6モルの中性子が生成される。そしてこの 4.6モルの中性子が、今度は 4.6モルのプルトニウム(約 1099 g)を分裂させることができる。この最初の2世代で分裂する 1.338 kg のプルトニウムは、TNT爆薬換算で約 23 キロトン (97 TJ (テラジュール) )に相当するエネルギーを放出する〔Nuclear Weapon Archive: 12.0 Useful Tables 〕。これは、核兵器が 4.5 kg のプルトニウム (2ステージ核兵器の第1段(核分裂段)の典型的な値) を持つとして、その 29.7 % に当たることになる。5 g の核融合物質が放出するエネルギーは 1.338 kg のプルトニウムの分裂によるエネルギーの 1.73 % に過ぎない。 核融合ブーストの後の第2世代の核分裂以降も連鎖反応は続くので、さらに大きなトータル核出力と高効率も達成可能である〔Nuclear Weapon Archive: 4.3 Fission-Fusion Hybrid Weapons 〕。 また、爆縮型核兵器は、もし臨界状態に到達する瞬間に中性子が存在して早期発火となってしまっても、必ず核融合反応を起こすために十分な程度の範囲の核出力 (前述のようにTNT換算で数百トン、温度20から30メガケルビン) を達成するように設計することが可能であるため、一旦核融合反応が開始されれば、(たとえ早期発火となったとしても)相対的に短時間に大量の高エネルギー中性子の供給により、核物質全体が飛散するまでにかなりの量の核物質が核分裂を終了できる。つまり、核融合ブーストは早期発火からのリカバリーを可能にするのである (もちろん、早期発火とならなければ、ブーストにより通常よりもさらに効率が高くなり、より大きな核出力が得られる)。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「ブースト型核分裂兵器」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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