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放射線ホルミシス(ほうしゃせんホルミシス、)とは、大きな量(高線量)では有害な電離放射線が小さな量(低線量)では生物活性を刺激したり、あるいは以後の高線量照射に対しての抵抗性をもたらす適応応答を起こす仮説である〔「放射線ホルミシス」ATOMICA 〕。トーマス・D・ラッキーは、電離放射線による被曝が慢性・急性のどちらの場合でも確認されている、と主張している〔ラッキー 2011 p.19〕。 ホルミシスとは、何らかの有害性を持つ要因について、有害となる量に達しない量を用いることで有益な刺激がもたらされることであり、その要因は物理的、化学的、生物学的なもののいずれかである〔 Luckey 1990 p.47〕。例えば紫外線は浴び過ぎれば皮膚がんの原因となり、また殺菌灯は紫外線の殺傷力によっているが、少量の紫外線は活性ビタミンDを体内で作るために必要であり、この活性ビタミンDは血清中のカルシウム濃度を調整するものであって、もし不足すればクル病の原因となる〔新しい放射線の知識を学ぶ会『生命と放射線』(日本電気協会新聞部 1998年) pp.18-19〕〔少量の紫外線についてはウイルスの活性化、バクテリアの胞子形成の誘発、カビの成長・発育・増殖の加速、酵母の成長と発酵の増加が報告されている( Luckey 1990 pp.120-122)〕。ホルミシスの語源はホルモンと同様にギリシア語のホルマオ(興奮する、の意味)である〔新しい放射線の知識を学ぶ会『生命と放射線』(日本電気協会新聞部 1998年) p.17〕。 ホルミシスという言葉が最初に用いられたのは菌類の成長を抑制する物質が低濃度では菌類の成長を刺激することを表現するものとしてであり、「少量の毒は刺激作用がある」とするアルント・シュルツの法則の言い直しである〔。1978年〔著作が出版されたのはスリーマイル島原子力発電所事故の起きた翌年の1980年であるが(ラッキー 2011 p.9)、記されたのは原発事故より前とされている。〕にミズーリ大学のトーマス・D・ラッキーは「電離放射線によるホルミシス〔Hormesis with Ionizing Radiation〕」において低線量の放射線照射は生物の成長・発育の促進、繁殖力の増進および寿命の延長という効果をもたらしうると主張して注目された。また翌1979年春に東京で開催された国際放射線研究会議において中国では「自然放射線の非常に高い地区に住んでいる住民の肺癌の発生率が低い」ことが発表されると、スリーマイル島原子力発電所事故調査委員長のFabricantが興味を示し、国際調査団Citizen Ambassadorを中国に派遣して以降、放射線ホルミシス研究が盛んになった〔坂本 2011 p.56〕。 == 概要 == 放射線ホルミシス効果とは、1980年にミズーリ大学生化学教授のトーマス・D・ラッキーが、自らは実験や研究を行っていないが、20世紀初頭から知られていた一時的な低線量の放射線による生物の各種刺激効果を、改めて他の多くの研究者の研究原著論文をCRC Pressから出版された本の中で紹介、整理することによって使用した言葉であり、アメリカ保健物理学会誌1982年12月号に掲載された総説によって提唱された仮説である〔Luckey T. D.,松平寛通(監訳):放射線ホルミシス、 ソフトサイエンス社(1990)、同:放射線ホルミシス(2),ソフトサイエンス社(1993)。東嶋和子著 『放射線利用の基礎知識』 講談社〕。この仮説では、一時的な低線量の放射線照射は、体のさまざまな活動を活性化するとされる〔。ラッキーは小論文『原爆の健康効用』を発表し、原爆は健康を促進した面があると主張している。 国際放射線防護委員会(ICRP)は、1983年より放射線ホルミシスの検討を開始しており、ICRP1990年勧告では、「今日、ホルミシスと呼ばれるこのような影響に関するほとんどの実験データは、主として低線量における統計解析が困難なため、結論が出ていない」「現在入手しうるホルミシスに関するデータは、放射線防護において考慮に加えるに十分でない」と述べている〔放射線ホルミシスとは何か 〕。 核戦争防止国際医師会議のオーストラリア支部メンバーで、核兵器廃絶国際キャンペーンのSue Warehamによると、原子力産業では放射線の危険性を控えめに扱い、ホルミシス概念の普及を続けているとしている。 ロシア科学アカデミーのアレクセイ・ヤブロコフらによると、ホルミシスの提唱者達は、放射線関連の疾病の増加が隠すことのできない事として明らかとなってきてからは、その放射線由来の疾病は全国的な恐怖の結果であるとの言い逃れを試みるようになり、同時に線形非閾値モデル(LNTモデル)に基づく放射能の影響を否定するキャンペーンが始まり、チェルノブイリ原子力発電所事故以後、ある科学者達は人以外の系における低線量効果に基づいてチェルノブイリのような線量は人間や全ての生物にとってためになるとの主張を始めて、LNTモデルなど現代の放射線生物学のいくつかの概念の改訂を試みる活動が続けられているとしている。 米国科学アカデミー「電離放射線の生物学的影響に関する委員会(BEIR)」によるBEIR VII報告(2005年)は、生物学的基礎研究(動物実験や細胞レベルの実験)と人間集団の疫学データをあわせて考慮した上で、低線量域でも放射線の被曝線量と影響の間には、しきい値がなく直線的な関係が成り立つとするLNT仮説は科学的に正しいと結論し、「LNTモデルは低線量放射線の健康影響を過大に考えているという見解も委員会は入手している。リスクはLNTから推計できるものより小さいか存在しないかであり、あるいはむしろ低線量被曝は人体によい影響をもたらすこともある、という考えである。我々はこうした仮説も受け入れることはできない。たとえ低線量であっても何らかのリスクがあるらしいことを示す情報の方が優勢なのである。」と述べている。 2007年時点では、マサチューセッツ大学のエドワード・キャラブレスらが継承して研究している〔Science News Online 2007年1月20日記事邦訳 〕。 近年では、日本の電力中央研究所や放射線医学総合研究所、東京大学、京都大学、東北大学、大阪大学、広島大学、長崎大学などの各大学〔財団法人 電力中央研究所 放射線安全研究センターによる放射線ホルミシス効果検証プロジェクト 〕〔酒井一夫, , 電中研ニュース401号〕で行われていたが、電力中央研究所は、2014年に「人に対する低線量放射線の影響として一般化し、放射線リスクの評価に取り入れることは難しい」との見解を示している〔放射線ホルミシス効果に関する見解 電力中央研究所 放射線安全研究センター 2014年6月13日〕。 電離放射線の性質を利用する放射線療法においては、放射線ホルミシスの範囲を逸脱する100から150ミリシーベルトという線量での放射線照射を数回全身あるいは半身に対して行うことで生体の免疫機能を高め、癌治療のための局所照射の効果を増強し、治癒率を高めたとする研究がある。局所腫瘍が発見された時点に、すでに他所に転移している可能性の大きい悪性リンパ腫を対象としたもので、他の治療法が試行されていない患者に承諾を得て30余例の治療が行われた〔坂本 2011 p.58〕〔〔財団法人 電力中央研究所 放射線安全研究センターによる放射線ホルミシス効果検証プロジェクト 〕。 児玉龍彦は放射線ホルミシスについて、(放射線などを当てると)p38というMAPK(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ)とか、NF-κBというシグナル系の分子が動き、これは短期的には様々な効果をもたらし、それを健康にいいとか悪いとかいう議論は様々あるが、こういう状態を長期的に続けると、慢性炎症と呼ぶ状態になり、慢性炎症は例えばガンの前提の条件になったり、様々な病気の原因になるということがよく知られていると述べている〔児玉龍彦さん発言まとめ 〕。 野口邦和(放射線防護学)は、放射線ホルミシスが原子力発電所の立地にともなう住民説得の道具として使われていることを指摘し、「ホルミシス現象が報告されているとおり本当に起こるのか、起こるとした場合、どういうメカニズムで起こるのか、起こるときの線量の範囲はどのくらいか」などを研究することは、放射線生物学的に意味のある重要なことであるが、現在までのところ、放射線ホルミシスは十分に証明され確立された現象ではなく、「放射線にまったく被曝しなかった人よりもちょっと被曝した方が発癌率が低かったり、かえって長生きする」などと主張することは明らかな誤りであり、「無用な放射線被曝はできるだけ避ける」「避けることのできない放射線被曝は、被曝線量をできるだけ低くする」ことが依然として放射線防護の大原則であるとしている〔航空機乗務員の宇宙線に起因する放射線被爆の問題 4 JAL健康講演会について 放射線ホルミシスとは何か 〕。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「放射線ホルミシス」の詳細全文を読む 英語版ウィキペディアに対照対訳語「 Radiation hormesis 」があります。 スポンサード リンク
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