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上代特殊仮名遣(じょうだいとくしゅかなづかい)とは、上代日本語における『古事記』・『日本書紀』・『万葉集』など上代(奈良時代頃)の万葉仮名文献に用いられた、古典期以降には存在しない仮名の使いわけのことである。 名称は国語学者・橋本進吉の論文「上代の文献に存する特殊の仮名遣と当時の語法」に由来する。単に「上代仮名」とも呼ばれる。 ==概要== まず要点を述べると、ひらがな・カタカナ成立以前の日本語において、a i u e o の5音ではなく、古い時代にはより多くの母音の別があったとする説で、ほぼ確実なものとしてこんにちの研究者には認められている。上代日本語の万葉仮名を音とそれに使われる漢字について分析すると、50音より多い音に対して使い分けられていると推論されることが、証拠とされている。この仮名遣いを「上代特殊仮名遣」と呼んでいる。具体的には、仮名の50音図でいうイ段のキ・ヒ・ミ、エ段のケ・ヘ・メ、オ段のコ・ソ・ト・ノ・(モ)・ヨ・ロの13字について、奈良時代以前には単語によって2種類に書き分けられ、両者は厳格に区別されていたことがわかっている。ただし、モの区別は『古事記』と『万葉集』巻5の一部のみに見られる。この区別は濁音のギ・ビ・ゲ・ベ・ゴ・ゾ・ドにもある。またエにも2種類の書き分けが見られるが、ア行とヤ行の区別と見られ、上代特殊仮名遣には含めないのが一般的になっている〔安田2007。〕。 二種類のうち、片方を甲類、もう片方を乙類と呼ぶ。例えば後世の「き」にあたる万葉仮名は支・吉・岐・来・棄などの漢字が一類をなし、「秋」や「君」「時」「聞く」の「き」を表す。これをキ甲類と呼ぶ。己・紀・記・忌・氣などは別の一類をなし、「霧」「岸」「月」「木」などの「き」を表す。これをキ乙類と呼ぶ。 イ段・エ段の甲乙の区別は動詞の活用と関係があり、四段活用では連用形にイ段甲類が、命令形にエ段甲類が、已然形にエ段乙類が出現する。上一段活用ではイ段甲類が、上二段活用ではイ段乙類が、下二段活用ではエ段乙類が出現する。 こうした甲乙の区別は、一々の単語ごとに習慣的に記憶されて使い分けられたものではなく、何らかの音韻の区別によると考えられている〔甲乙の書き分けを音韻の違いの反映と見るのは、「オッカムの剃刀」に従っている。その他の説明はより多くの前提を必要とする。〕。すなわち、上代日本語にはいろは47字+濁音20の67音でなく、それより20音多い87音(「モ」を加えれば88音)の区別があった。後世存在しない音韻がどのように区別されていたかは諸説あって定論がないが、例えば母音が8種類あったなどと推定することが可能である。 8世紀後半になるとまずオ段(コを除く)から区別が失われはじめた。このような中間的な状態は仏足石歌・宣命・正倉院万葉仮名文書・および木簡資料などに見られる。平安時代になるとほとんどの区別は消滅したが、コの区別は9世紀前半まで、エの区別は10世紀前半まで残った。 上代特殊仮名遣が廃れてから「かな」が発達したため、これを表現する仮名文字は存在しない。そのため、文字上で甲乙の区別をする必要がある時は「甲」「乙」等といった明記、右左の傍線、外国語で使われるウムラウト等の流用、カタカナ化などで対応している。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「上代特殊仮名遣」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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