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線形応答理論(せんけいおうとうりろん、Linear response theory、線型応答理論)は、熱平衡状態にある系に、磁場や電場などの外場が加わった時、その外場による系の状態の変化(応答)を扱う理論である。非平衡な状態を扱うための理論として、その形成には久保亮五、森肇、冨田和久、中野藤生、中嶋貞雄ら日本人研究者が大きく貢献しており、特に久保亮五は代表者として彼らの仕事をまとめたことで有名になった(一例:〔R. Kubo, J. Phys. Soc. Jpn., 12, (1957) 570.〕)。 線形応答理論を使って、磁場や電場に対する、磁化率や電気伝導などの応答を扱うことができる。結晶格子内での格子のずれ(変位)を外場として、線形応答を使って変位に対する応答としてのフォノンの振動数や状態密度などを求めることができる(→DFPT法)。 変位の応答の虚部、あるいは流れの応答の実部がエネルギー散逸(パワーロス)を与える。たとえば、電荷の分極率の虚部や電気伝導率の実部である。変位と流れの応答は互いに独立ではなく、互いに関係づけられる。応答関数は平衡状態での流れの相関関数で与えられる。変位に関する線形応答は、緩和関数を通してみるとすっきりする。〔宮下精ニ『有限温度の物理学』丸善、2004年〕 ==歴史== アインシュタインによるブラウン運動の理論の後,ランジュバンによってランジュバン方程式が導入されたのが1908年である〔P. Langevin, C. R. Paris, 146, 530, (1908)〕.さらに1927年にジョン・B・ジョンソンは抵抗の両端に発生する揺動起電力を発見し〔J. B. Johnson, Nature, 119, 50, (1927)〕,起電力のゆらぎと抵抗を結びつけるナイキストの定理は1928年に提案されている〔H. Nyquist, Phys. Rev. 31, 101, (1928)〕.このナイキストの定理は第二種揺動散逸関係式に他ならない.またオンサーガーの相反定理は1931年に発表されている〔L. Onsager, Phys. Rev. 37, 405, (1931), ibi, 38, 2265, (1931)〕. 一方,古典的なリウヴィル方程式や量子的なフォン・ノイマン方程式から粗視化によってボルツマン方程式やフォッカー・プランク方程式を導くという研究が戦後の大きな流れとなった.その中でよく知られているのは分布関数のBBGKYヒエラルキーの存在であり〔J. Yvon, ''La théorie statistique des fluides et l'équation d'état'' (Paris, Hermann, 1937)〕〔J. G. Kirkwood, J. Chem. Phys. 3, 3, (1935), ibid 7, 919 (1939)〕〔M. Born, M. S. Green, Proc. Roy, Soc. London A 190, 445, (1947)〕〔''A General Theory of Liquids (Cambridge University Press, 1949), N. N. Bogoluibov, J. Phys. USSR. 10, 180, (1946)〕,BBGKYヒエラルキーの最低次である1体分布関数の時間発展において,2体相関以下を無視したものがボルツマン方程式に対応するという事実である.一般にBBGKYヒエラルキーでは分布関数の時間発展を解こうとすると,より多体の分布関数の情報が必要になる.ジョン・G・カークウッドは更に研究を進めて,ブラウン運動における第二種揺動散逸関係式,すなわち揺動力の時間相関で摩擦係数を表現することも行なっている.さらにナイキストの定理の量子系への拡張はCallen-Weltonによってなされ〔H. B. Calenn, T. A. Welton, Phys. Rev. 83, 34, 1951)〕,揺動散逸定理の名称も定着した.それを発展させて輸送係数と時間相関関数の一般論を論じたのはメルヴィル・S・グリーンであった〔M. S. Green, J. Chem. Phys. 20, 1281, (1952), ibid, 22, 398, (1954)〕. 戦後しばらくは非平衡統計力学の一大中心地は日本であり,線形応答理論の成立に対して果たした日本の役割は大きい.例えば熱揺動と輸送係数の間の一般論は高橋秀俊によって世界に先駆けて論じられている〔H. Takahashi, J. Phys. Soc. Jpn. 7, 439, (1952)〕.久保亮五は冨田和久と協力して磁気共鳴の一般論を完成させた〔R. Kubo, K. Tomita, J. Phys. Soc. Jpn. 9, 888, (1954)〕.これは磁性体に振動磁場がかかった時の線形応答理論であり,後年の線形応答理論に必要な道具はほとんど含まれていた論文であった. いわゆる久保理論〔R. Kubo, J. Phys. Soc. Jpn. 12, 570, (1957)〕が国際的評価を受けたのは,電気伝導率が電流のカノニカル相関で書けることを示した久保公式のためであった.しかしこの久保公式は先に中野藤生が1955年に発見している〔中野藤生,物性論研究 84,25,(1955). H. Nakano, Prog. Theor. Phys. 15, 77, (1956)〕.中野は電気伝導の公式を導いたものの,久保ほど評価されることはなかった.中野の他にも中嶋貞雄〔S. Nakajima, Adv. Phys. 4, 363, (1955), 中嶋貞雄, 物性論研究, 88, 45, (1955)〕,M. Lax〔M. La, Phys. Rev. 190, 1921, (1958)〕,ファインマン〔R. P. Feynman, unpublished.〕等が同様の結論に達していたようである.その中で久保亮五は,ミクロなハミルトニアンから出発して一見力学的な計算で誰にでも分かる形で中野公式を導出し,線形応答理論が非平衡物理の中で根幹的な役割をはたすことを認識して一般化と普及に務めた.この久保の立場は,電気伝導の中野公式が現象論であることを強調していた中野と著しい対比をなし,やがて久保理論は世界的に受容されるようになっていった. 一方で久保理論の発表の後,等によって久保理論は現象論であるという指摘がなされた〔N.G. van Kampen, Physica 5, 279, (1971).この手の議論は1953年に高橋秀俊がすでに指摘していた.〕.van Kampenは,例えばハードコア系をイメージすれば分かる通り,軌道不安定な系では摂動では扱えないような大きな起動変化があるので,ミクロな摂動として扱った久保の導出は正しくないというものであった.最近の研究では,軌道不安定性ゆえに混合性があり,軌道分布は摂動に対して安定になり,より線形応答理論が成立することを保証するという理解になっている.しかしそうであれば,設立時にその種の認識がなかった線形応答理論は現象論として捉えるほうが適切であろう. このようにデリケートな問題を含みつつも線形応答理論の果たした役割は大きく,更に数学的には応答関数はグリーン関数にほかならないために,あらゆる分野で広く使われる枠組として定着している. 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「線形応答理論」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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