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本項では、中国明代に成立した長編白話小説で、四大奇書の一つである『西遊記』の成立過程について概説する。『西遊記』は唐代初期を舞台とし、三蔵法師がサルの孫悟空、ブタの猪八戒、水怪の沙悟浄らを供に、幾多の苦難を乗り越え、経典を求めて天竺(インド)を目指して旅するという神怪小説である。実在の僧侶玄奘が、仏典を求めるため国禁を犯し、16年の歳月をかけてインドとの間を往復した史実を踏まえてはいるが、各地に伝わった三蔵伝説や猿にまつわる逸話などを吸収し、南宋代の都市で語られた講談や元の雑劇で発展した。元末期頃(14世紀)に大枠の話が成立した後、いくらかの改編を経て、明代中期の16世紀に、長篇小説として完成する。現存する最古のテキストは、1592年初版の『新刻出像官板大字西遊記』(世徳堂本)であり〔磯部2011、26頁。〕、その後清代にかけて様々な刊本が発刊された。 ==作者の問題== 小説『西遊記』の作者は不詳であり、一般的には呉承恩という人物とされることも多いが、確たる根拠はなく、甚だ疑わしい。作者が不明なのは、『西遊記』の古刊本に作者が明示されたものがないためである。かつては清代の『西遊証道書』の序文「西遊記原序」(虞集序とも)に、作者を「丘長春真君」とする記述があったことから、チンギス・カンに仕えた道士の丘処機(長春真人)が作者とされていた。確かに長春真人には「西遊記」という名の著作があるのだが、これは紀行であって小説ではない(この旅行記は同行した弟子の李志常が記録したもので、現在では区別のため『長春真人西遊記』と呼ばれる)。後述するように、長春真人を作者としたのは清代の書店による権威の箔付けであり、事実ではない。 それに対し、最初に呉承恩を作者として挙げたのは、清代考証学者の丁晏(1794年 ‐ 1875年)らと言われる〔磯部1993、5頁。〕。20世紀に入り中華民国時代に魯迅が『中国小説史略』でこの説を採用し、胡適も同様に主張して、以降定説化したものである。呉承恩(字は汝忠)は明代の官僚で、多くの著作を残したというが、現在そのほとんどが伝わっていない。作者に擬せられた理由は天啓年間の『淮安府志』巻12「文目」に「''呉承恩、射陽集四冊 巻、春秋列伝序、西遊記''」との記述があるためである。ここに記された「西遊記」が小説『西遊記』のことと解釈され、呉承恩を作者とする説が生じた。しかし「西遊記」という書名は、上記の長春真人の例でも分かる通り、西方への旅行記を指す一般的な名詞でもある。ゆえに『淮安府志』に記された「呉承恩西遊記」もまた小説『西遊記』を意味するものとは限らない。そもそも王朝が公式に作成した正史に準ずる存在である地方史『淮安府志』に、当時の士大夫(知識人)層から軽蔑された白話小説の作者であることが堂々と記載される蓋然性も低い〔磯部1993、368-369頁。〕。明代の著作を集めた黄虞稷『千頃堂書目』において「呉承恩西遊記」が巻8史部「輿地類」に分類されていることからも、この書が地理志ないし紀行文であって、小説だった可能性は低いとみられる〔磯部1993、370頁。〕。また現存するすべての明刊本において、作者を呉承恩と記載したものは1点も存在せず、呉承恩が小説『西遊記』の作者であるという説は、現在ではかなり疑わしいとされる。 『西遊記』という小説は、宋代の講談や元代の雑劇などで培われた逸話群に由来を持ち、明代に長篇小説として成立した経緯から、一人の作者を特定するのはそもそも不可能で、せいぜい長年培われた伝説をまとめ上げた編者の存在が想定できる程度である。それとて長春真人や呉承恩といった人物が、候補として見なしがたいというのは上記で見た通りである。同様の成立過程を持つ『三国志演義』『水滸伝』も、それぞれ羅貫中・施耐庵などの名がしばしば作者として挙げられるが、彼らも作者ないし最終編者として見なすには根拠が薄弱で似た状況にある(詳細は三国志演義の成立史・水滸伝の成立史を参照)。『西遊記』も最終的な編者が誰であるか、証拠が発見されていないため、現時点では不明と言わざるを得ない。以下に『西遊記』が小説として形成されていく過程を概観する。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「西遊記の成立史」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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