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貨幣錯覚(かへいさっかく、money illusion)とは、人々が実質値ではなく名目値に基いて物事を判断してしまうこと。本来、貨幣価値の変化を考慮した購買力によって判断しなければならない時に、金額を通じて判断を行なってしまうこと。貨幣の中立性が成立しなくなる一要因である。 == 概要 == 貨幣はそれ自身が何か有用であるわけではなく、あくまで貨幣によって購入されたものから満足を得ることができる。つまり、名目的な貨幣額ではなく実質的な購買力こそが重要なはずである。それにもかかわらず、人々には名目の貨幣額に基づいて行動を決定する傾向があり、それをアーヴィング・フィッシャーは貨幣錯覚と名付けた〔Irving Fisher (1919), "Stabilizing the Dollar ," American Economic Review, Vol.9, No.1〕〔Irving Fisher (1928), "The Money Illusion"〕。その後、多くの実証分析や実験などによって、存在が確認されてきた〔Shafir, Diamond and Tversky (1997), "Money Illusion ," Quarterly Journal of Economics, 112 (2)〕。 たとえば、10%のインフレが起きることを知っている企業が名目賃金を5%引き上げたとする。このとき実質賃金は低下しているが、労働者が名目賃金の上昇だけを見て労働供給を増やそうとするような場合、労働者は貨幣錯覚に陥っていると言う。 あるいは、1%のデフレ経済において、手取りの給料が500万円から499万円に下がったとする。このとき実質の給料は増えており購買力は上昇しているにもかかわらず、名目の給料が減っていることを見て支出を減らそうとするような場合にも、貨幣錯覚が起きている。 また、2%のインフレ下において名目賃金を1%引き上げることと、1%のデフレ下において名目賃金を2%引き下げることは、実質で見るとほぼ同じことである。しかし労働者が、名目賃金が減ってしまう後者に対して、前者に対するよりも非常に強く反対するということが見られる〔黒田祥子, 山本勲 (2003), "名目賃金の下方硬直性が失業率に与える影響 ─ マクロ・モデルのシミュレーションによる検証 ─ "〕。これも貨幣錯覚の一つである。 なお、貨幣「錯覚」とは呼ばれるものの、これは非合理的行動であるとは限らない。実質化して購買力に基いて考えるには、今後それぞれが購入する可能性のある様々な財の将来の物価に関する知識が必要となるが、それを正確に知ることはできないため、より不確実性の低い名目値をベースに考えることには合理性がある。また、契約や法のように名目値で固定され、実質化して考えることが適さない事象も多いため、やはり名目値を基準に判断することには一定の合理性がある。たとえば、持ち家の購入など、ある時点で将来までの消費を約束するような契約によって、理論的にも人々が名目値を重視する可能性が高くなることが指摘されている〔Postlewaite, Samuelson and Silverman (2004), "Consumption Commitments And Preferences For Risk ," NBER Working Paper, No.10527〕。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「貨幣錯覚」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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