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輓獣(ばんじゅう)は、車両やソリ、農耕具などを牽引するための動力として用いられる使役動物である。駄獣がその体自体に直接荷物を載せて運ばせるのに対して、輓獣は荷物を載せた車両やソリを牽引することで、より大きく重い荷物を運ばせることができる。また、犂を輓獣に牽かせて耕作することで、田畑をより深く耕すことができる。輓獣として利用される馬のことを特に輓馬(ばんば)という。 == 種類 == 荷車の牽引や犂牽きにどの種類の動物を利用するかということに関しては、その地域の気候への適性やそこで得られる餌の種類などが影響している。ただし、その地域で古くからその方法が利用されてきたというだけの理由で特定の種類の輓獣の利用が継続され、より強力な輓獣が利用可能であっても移行が進まないといった事例も広くみられた。 ; ウマ : 馬は乗用や輓獣として広い地域で利用されてきた。駄獣としても利用されるが、軽量の物品を高速で輸送したいときなど比較的機会が限定されており、騎兵用を中心とした乗用利用と、馬車を牽引させる輓獣としての利用が一般的である。チャリオットの牽引や騎兵による利用は古代から重要であった。これに対して荷車の牽引には、当初は馬より牛が利用されていたと考えられており、またロバやラバの時代も経て次第に馬に切り替わっていった〔『図説馬と人の文化史』pp.116 - 117〕。犂を牽かせる動物としてはずっと牛が利用されていたが、中世のヨーロッパにおいて三圃式農業の普及により馬に飼料として与えるカラスムギの生産が広まり、また牛より馬のほうが犂引きが速いことなどから、次第に馬に転換していった〔『図説馬と人の文化史』pp.229 - 231〕。また馬の品種改良が進んで重種馬が出現するようになると、馬車の利用がさらに広まって一般的なものとなっていった。これに合わせて道路網の改良も進んだ〔『図説馬と人の文化史』pp.231 - 238〕。鉄道が発明される直前のイギリスでは全土を覆う郵便馬車網が発達しており、徒歩に比べて相当程度高速で移動できた。また、車輪とレールを組み合わせた鉄道においても、馬車鉄道という形で利用されていた。寒冷な地方・時期では馬ゾリも利用される。陸軍が馬に牽引させて大砲を移動することは、第二次世界大戦頃までは一般的に行われており、かつては輓馬を御すことが砲の取り扱いや砲撃目標観測と並んで砲科の将兵が習得すべき重要な技能であった。 ; ロバ : ロバは馬に比べて足が遅いが、より重い荷車を牽引させることができる。また、暑い地方にもともと分布しており、そうした地域でよく利用されてきた。足が遅いことから騎兵用や狩猟用の乗用には向かず、もっぱら駄載用・輓曳用に利用されてきた〔『図説馬と人の文化史』p.85〕〔『家畜の歴史』pp.432 - 435〕。 ; ラバ : オスのロバとメスの馬を掛け合わせてできたのがラバで、雑種強勢により体格が大きく粗食に耐え耐久性もあることから、広く輓獣として利用されてきた。ラバに牽かせた車両を何両も連ねた隊列をミュール・トレイン (mule train) と呼び、アメリカの西部開拓などで大きな役割を果たしてきた。メスの馬についていく習性があることから、ミュール・トレインの先頭にはメスの馬を行かせる習慣があった〔『図説馬と人の文化史』pp.48 - 63〕〔『家畜の歴史』pp.437 - 438〕。 ; ケッテイ : ラバとは逆に、オスの馬とメスのロバを掛け合わせてできたのがケッテイ(駃騠)で、同様に輓獣としての利用がなされる。しかし、ラバに比べてケッテイは生産が難しいうえに〔『図説 動物文化史事典』p.157〕、耐久性や力の面でもラバのほうが優れていることから、ケッテイの家畜としての利用はあまり広まらなかった〔『図説馬と人の文化史』p.54〕〔『家畜の歴史』pp.437 - 438〕。 ; ウシ : 牛は最も古い時代から輓獣として利用されてきた動物で、世界中の多くの文明で牛車を使う習慣があった。また犂を牽かせるためにも広く利用されてきた。紀元前3200年頃のメソポタミアの遺跡から出土した物品の飾りとして描かれた牛を見ると、既にその当時車両の牽引や犂牽きのために用いられていたことが分かる〔『家畜の歴史』pp.242 - 243〕。牛耕の導入は鉄製農具の普及と並び農業生産性を著しく向上させた。一部の文明では後に主な輓獣が馬に移行したが、近代的な交通機関の普及まで牛を輓獣として利用し続けた文明も多い〔『家畜の歴史』p.271〕。 ; スイギュウ : 水牛は、中国・東南アジア・インドなどアジアの熱帯に近い地方で広く用いられている。熱帯の植物を主食とし穀物などは受け付けないので寒い地方では利用できないが、一方で暑さにも弱く1日に3時間は水に浸からなければならないので水辺での生活が欠かせない。移動速度は大きくないが、牛よりも牽引力が大きく粗食に耐えるので、荷車の牽引用として優れている。また水田において代掻きを行うといった用途にも重要であった〔『図説 動物文化史事典』pp.232 - 236〕〔『家畜の歴史』pp.272 - 280〕。 ; ラクダ : ラクダは車両やソリの牽引に利用される例は少ないが、犂を牽かせる農耕用の目的では利用されることがある。乾燥地域ではラクダを運搬に利用し、耕作可能な土地に到着すると犂を牽かせるといった利用がされている〔『家畜の歴史』pp.414 - 418〕。 ; ゾウ : 象は4,000年ほど前から使役動物として利用されており、輓獣としては製材業者などが木材を牽引させるために利用している。駄獣としての象の利用は限定されたものであるが、輓獣としては他にない強い力を利用するためなどに使役されたことがある。また古代においてはチャリオット(戦車)を牽かせるために象を用いたことがあり、軍事的な利用もされていた〔『図説 動物文化史事典』pp.194 - 195, 200 - 201〕。 ; トナカイ : トナカイはラップランド・シベリア・北アメリカ北部などの寒冷地帯で乗用・駄載用・輓用など各種の目的として利用されている。駄獣としての利用は一部の民族に限られているが、ソリの牽引用には広く用いられている〔『家畜の歴史』p.132〕。かなり古くからトナカイを家畜として利用してきたのではないかと考えられているが、ソリの牽引にいつ頃から使用されるようになったのかははっきりした証拠がなく、意見が分かれている〔『図説 動物文化史事典』p.224〕。 ; イヌ : 犬は駄獣としての利用はごく限られているが、輓獣としてはイヌぞりを牽かせるために広く用いられている。馬に比べて寒冷に強く、また食料も寒冷地でも手に入る肉を食べさせることができるので、寒冷地ではソリを牽かせるために馬よりも向いている。アムンセンとスコットの南極点到達競争において、アムンセンが先に到達して生還したのに対してスコットは遅れを取った上に帰途で死亡してしまった大きな理由の1つとして、スコットは馬のソリを主力にしたのに対してアムンセンはイヌぞりを主力にしたということが挙げられる〔『図説馬と人の文化史』pp.240 - 242〕。またかつて四国や九州の森林鉄道などで、機関車の代わりに犬に車両の牽引をさせていた記録がある〔。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「輓獣」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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