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道徳的実在論(どうとくてきじつざいろん、)とは、倫理に関する言明は、世界の客観的な性質を指示する命題を表現しており、そうした性質をどれだけ正確に報告しているかによって命題の真理値は定まる、とする学説である。したがって、道徳的実在論は、存在論的傾向をもった倫理的認知主義(ethical cognitivism)の非虚無主義的タイプの一つであり、道徳的非実在論(anti-realism)や道徳的懐疑主義(moral skepticism)、そして非認知主義(non-cognitivism、道徳的言明が命題を表現することなどないとする立場)と対立する。ここでいう道徳的懐疑主義には、倫理的主観主義(ethical subjectivism、道徳的命題が客観的事実を表現することを否定する立場)や錯誤理論(error theory、真なる道徳的命題は存在しないとする立場)を含む。道徳的実在論は、倫理的自然主義(ethical naturalism)と倫理的非自然主義(ethical non-naturalism)の二つに分けられる。 多くの哲学者の考えでは、哲学的教説としての道徳的実在論はプラトンにまで遡ることができ〔''Plato's Moral Realism: The Discovery of the Presuppositions of Ethics'', by John M. Rist (Jul 15, 2012)〕、そして道徳についての理論として現在でも完全に擁護可能な立場だとされる〔''Moral Realism as a Moral Doctrine'', (New Directions in Ethics), by Matthew H. Kramer 〕。ある研究によると、哲学者全体の56%が道徳的実在論を受け入れている、あるいはそれを支持する傾向にあることが判明した(非実在論は28%、その他は16%)〔PhilPapers survey, 2009 , under the heading 'Meta-ethics'〕。堅固な道徳的実在論者としてよく知らている哲学者には、次のような人物がいる。デイヴィッド・ブリンク〔Brink, David O., Moral Realism and the Foundations of Ethics (New York: Cambridge University Press, 1989).〕、ジョン・マクダウェル、ピーター・レイルトン〔Railton, Peter (1986). "Moral Realism". ''Philosophical Review'', 95, pp. 163-207.〕、ジェフリー・セイヤー=マッコード〔Sayre-McCord, Geoff (2005). "Moral Realism", ''The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Winter 2005 Edition)'', Edward N. Zalta (ed.). (link )〕、マイケル・スミス、テレンス・キュネオ〔Cuneo, Terence (2007). "The Normative Web: An Argument for Moral Realism", Oxford.〕、ラス・シェイファー=ランダウ〔Shafer-Landau, Russ (2003) "Moral Realism: A Defense", Oxford, ISBN 0-19-925975-5.〕、G.E.ムーア〔 * Moore, G. E. (1903). ''Principia Ethica'', Cambridge: Cambridge University Press.〕、ジョン・フィニス、リチャード・ボイド、ニコラス・スタージョン〔Sturgeon, Nicholas (1985). "Moral Explanations", in ''Morality, Reason, and Truth'', edited by David Copp and David Zimmerman, Totowa, N.J.: Rowman and Allanheld, pp. 49-78.〕、トマス・ネーゲル、デレク・パーフィット。ノーマン・ジェラスによれば、カール・マルクスは道徳的実在論者であったと考えられる〔Geras, Norman (1985). "The Controversy about Marx and Justice", ''New Left Review'', 150, pp. 47-85.〕。道徳的実在論を哲学的・実践的に応用する研究も多様に進められている〔''Praise and Blame: Moral Realism and Its Applications'', (New Forum Books), by Daniel N. Robinson (Jul 29, 2002).〕。 == 堅固な道徳的実在論vs.最小限の道徳的実在論 == 道徳的実在論は、最小限のタイプ、穏健なタイプ、そして堅固なタイプの三通りの仕方で説明される〔。 道徳的実在論の堅固なタイプを採用する場合、以下の3つのテーゼを支持することになる〔Väyrynen, Pekka (2005). "Moral Realism", ''Encyclopedia of Philosophy, 2nd Edition'', Donald M. Borchert (ed.). (link )〕。 # 意味論的テーゼ:道徳的述語(「正しい(right)」や「誤っている(wrong)」など)の主要な意味論的役割は、道徳的性質(正しさ(rightness)や誤り(wrongness))を指示することであり、道徳的言明(「正直であることは良い」や「奴隷制度は不正だ」)は道徳的事実を表明し、真もしくは偽である(もしくは、ほぼ真である、大体において真である等々の)命題を表している。 # 価値論的テーゼ:道徳的命題の中には実際に真であるものがある。 # 形而上学的テーゼ:道徳的命題が真であるのは、行為やその他の道徳的評価対象が関連する道徳的性質を有している(関連する道徳的事実が成立している)ときであり、またそれらの事実や性質が堅固である場合である。そして道徳的事実や性質の形而上学的な身分は、それがどのようなものであれ、(特定の)日常的な非道徳的事実や性質と重要な違いを持たない。 最小限のタイプ、すなわち道徳的普遍主義(moral universalism)を採る論者は、形而上学的テーゼは道徳的実在論者「内部での」争点である(実在論者と非実在論者の間での対立ではない)と理解した上で、このテーゼを拒絶する。堅固なタイプを支持する論者は、形而上学的テーゼを受け入れるか否かこそが道徳的実在論と非実在論の重要な違いであると考えるが、それは大して重要な論点ではないと最小限タイプの支持者は考えるのである。実際、論理的に可能(ではあるが風変わり)な特定の立場(例えば、形而上学的テーゼを受け入れつつ意味論的テーゼと価値論テーゼを拒絶するような立場))をどうやって分類するかという問題は、我々がどのタイプを支持するかということにかかっている〔Joyce, Richard (2007), "Moral Anti-Realism", ''The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Fall 2007 Edition)'', Edward N. Zalta (ed.). (link )〕。堅固なタイプを採用する人は、このような立場を「実在論的非認知主義」と呼び、一方、最小限のタイプを採用する人は、同じ立場をより伝統的な非認知主義の一種として位置づける。 堅固なタイプと最小限のタイプは、道徳的主観主義(道徳的事実は心から独立しては存在しないが、道徳的言明はそれでも真でありうるとする立場)をどう分類するかについても意見を異にする。主観主義と道徳的非実在論は関連する立場であると歴史的に考えられてきており、このことが理由で、道徳的実在論の堅固なタイプは(明示的ではないにせよ)メタ倫理学に関する伝統的・現代的研究の両方において支配的であり続けた〔。 最小限の実在論に関しては、R.M.ヘアの後期の著作がその代表だと考えられるが、それは彼が道徳的言明が真理値を持つことを否定しつつも、価値判断の客観性にコミットしているからである。ジョン・ロールズやクリスティン・コースガード〔Korsgaard, Christine (1996). ''The Sources of Normativity'', New York: Cambridge University Press.〕に代表される道徳的構成主義者もまた、最小限の実在論者であるといえる。コースガード自身は、自らの立場を手続き的実在論と呼んでいる。進化生物学者のチャールズ・ダーウィンやジェームズ・マーク・ボールドウィンの論考のある解釈によれば、倫理が生存戦略や自然選択に結びつけて考えられる限りにおいて、倫理的行為は生き残りの倫理であると同時に穏健な道徳的実在論にも関わっていると考えられる。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「道徳的実在論」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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